第110章 魔王の霍乱
障子越しに射し込む朝の光に瞼を擽られ、ゆっくりと意識が浮上する。布団の上で寝返りを打つと、何とも気怠くて手足を動かすのも億劫に感じた。
「……起きたのか?」
「んっ…あっ…信長さま?あ…あれ…もうそんな時間ですか?」
寝起きのぼんやりと焦点の定まらない目で信長の姿を捉えると、信長は既に着替えを済ませ、きっちりと身支度を整えた格好で布団の上に腰を下ろしていた。
「ご、ごめんなさい。私ったら寝過ごして…」
これは完全に寝過ごしたと思い、慌てて身を起こそうとするものの思った以上に身体が怠くて、すぐには起き上がれなかった。
(あ、あれ…?何でこんなに身体が重いんだろう?)
昨夜は信長から何度も愛を注がれて全身グズグズに溶かされてしまったが、旅先ということで珍しく遠慮(?)してくれたのか、朝までと言いながらも程良い時間には寝かせてくれたのだ。いつもの如く濃密な夜ではあったが、こんなにも重く残るほどとは思ってもいなかった。
「…?何だ?起き上がれぬのか?」
布団の上でぎこちなく身動ぐ私を見下ろしながら、信長様は不思議そうに声を掛ける。
「あ、あの…何だかちょっと身体が怠くて…で、でも、大丈夫ですから!」
焦る私を見て悩ましげに眉間に皺を寄せた信長様は、徐ろに私の頭の後ろに手を伸ばしてそっと引き寄せ、額をコツンと合わせた。
「えっ…あっ…」
「…熱は…ないみたいだな。昨夜は加減したつもりだったが、久しぶりの遠出で疲れが出たか?」
「そうかもしれません。うぅ…不甲斐ないです」
「疲れているのならゆっくりさせてやりたいが、今日は…」
「分かってます。今日は領内の視察に行かれますよね?私もお供します!」
信長の突然の安土訪問の意図は分からないままだったが、領内の視察は流石に予定に入っているだろうと思っていた。当然同行するつもりでいたので、身体が怠いなどと朝から甘えたことを言っている場合ではないと声を上げた。
「視察には違いないが…貴様を連れて行きたいところがある」
「あっ…そういえば、私に見せたいものがあるって…」
「ああ、体調が悪くないのなら今から出られるか?」
「はい!」
(見せたいものって何だろう?そのために私を連れて来て下さったの…?)