第110章 魔王の霍乱
いきなり耳の後ろに唇が強く押し当てられて、ちゅうぅっ…と音が聞こえるほど強めに吸われた。
不意打ちの耳への愛撫にあられもない高い声が上がってしまい、馬上で腰がビクッと跳ねる。
「っ…やっ…信長様っ、何する…んんっ…や、やぁっ…やめ…あっんっ…」
ーちゅうぅっ…ちゅっ、カリッ…
耳朶をパクリと唇で喰まれ、これもまた強めに吸い上げられる。柔く歯も立てられて、あられもなく身悶えてしまう。
「くくっ…動くなと言ったであろう?落ちても知らんぞ?」
意地悪そうに言いながらも、支えるように腰に回された腕にぐっと力が籠る。
「ぁっ…んっ…だってぇ…」
敏感になった身体にはそれすら甘い刺激になってしまったのだが、そんなことは言えなかった。
山道は整備された街道と違って馬上の揺れが激しい。支えてもらっていても揺れが直に腰に響いてくる。
下からは揺れに腰を突き上げられ、上からは甘い疼きを与えられては、動くなと言われても自然と身体が揺らいでしまう。
「んっ…も…意地悪しないで、信長さま…」
「つれないことを言うな。こうして貴様と触れ合えるのはいつ以来だと思ってる?ずっと貴様が足りなかった」
「っ…でも、ここでは…」
峠道で行き交う人も疎らであるとはいえ、往来で馬の背に揺られながらの戯れは目立つことこの上ない。触れ合いたいと思う気持ちは同じであれど、やはり恥ずかしさが先に立ってしまい素直に身を委ねられなかった。
「どこであろうと構わん。安土までは長い。道中、俺を退屈させるな」
「そ、そんな…」
言っている間にも、信長の手は着物の上から朱里の身体を弄っている。さすがに馬上なので着物が乱れるほどの激しさはないが、やんわりと身体の線をなぞる焦らすような触れ方がかえって身の奥の熱に燻った火を点けるようで落ち着かなかった。
(こんなの身が持たない。私、このまま安土まで無事に辿り着けるだろうか…)
大坂から安土までは、はたして近いのか遠いのか…旅の始まりから早々に信長に身も心も翻弄されてしまい、この先の旅路の前途が危ぶまれる予感しかしなかったのであった。