第110章 魔王の霍乱
(あれ?何だか機嫌が悪いような…熱のせい?)
「信長様、どうかなさったのですか?どこか痛いですか?」
私の話を黙って聞いていた信長様が段々と顔を顰めていくのに気付いて慌てて声を掛けた。
「……別にどこも痛くはない」
「え、でも、そんな顔…あ、もしかして頭が痛いんじゃないですか?もっと冷やした方が…」
「いらん。それよりも薬を寄越せ」
「えっ…薬はまだ…今、家康が用意してくれてて…ん、んんっ!」
いきなり後ろ頭を引き寄せられると、あっと思う間もなく唇を塞がれる。熱を帯びた柔らかい唇の感触に驚いていると、すぐさま熱く濡れた舌が強引に口唇を割って口内へと入って来た。
熱があるせいでいつもより熱い信長様の舌は私の口内を余すところなく擽っていき、突然の熱い抱擁に戸惑っていた頭を快楽へと蕩けさせる。
「っ、ふっ…んっ、あっ、んっ…」
口内で舌先を絡めたまま、呼吸する隙さえも与えられず、激しく貪るような口付けが続く。有無を言わせぬ強引な口付けの意味が分からずに心と身体が激しく混乱しながらも、与えられる熱に身を委ねた。
(っ…急にどうしてこんな…)
ーちゅうぅ…くちゅっ…
目紛しい快楽の波に翻弄されてその場に崩れ落ちそうになる頃になって漸く、しっとりと湿った水音とともに唇が離れて行った。
「んっ、はぁ…信長さま?急にどうして…?」
「……分からぬならいい」
「えっ…」
先程までの身の奥まで揺さぶられるような口付けの強引さとは打って変わって、私から視線を逸らす信長様はどこか頼りなげで……
「よくないです。隠し事はなしですよ」
「別に何も隠してなどいない。もういい、寝る」
不貞腐れたように言うと、それ以上の問いかけを拒絶するかのように背を向けてガバッと布団を頭まで被ってしまった。
(な、何?何なの、一体?まるで拗ねた子供みたい…あっ…)
「信長様?」
「…………」
寝たふりなのか、呼びかけてもピクリともしてくれない。
(これは…完全に拗ねてる。っ…もぅ、可愛いというか何というか…本当に困った方だ)
ここに至って漸く信長の不機嫌の理由に何となく思い当たることがあり、愛しくも面映い気持ちになった。