第109章 光秀の閨房指南ー其の弐
「さぁ、もう休め。寝所へ行くぞ」
朱里の手から香油の小瓶を取り上げた信長は、そのまま膝裏に手を回してさっと抱き上げた。
夜着越しに触れた身体は熱を持ったように熱くなっていた。
「あ、んっ…やっ、まだ…やだっ…」
身を捩り嫌がる素振りを見せる朱里を強く抱き竦めて寝所へと足を向ける。襖を静かに開けて中へ入ると、吉法師がすぅすぅと穏やかな寝息を立てて眠っていた。
幼子の幸せそうな寝顔を横目に見ながら、薄明かりの中を移動した信長は朱里を腕に抱いたまま自らも寝台の上に横になる。ぎゅっと抱き締めて足も絡めると、身動きできぬような格好になった。
「やっ…信長さま?」
「んー?」
「っ…離して下さい!私、まだ寝ないんだからっ…」
「聞き分けのないことを言うでない。くくっ…今宵の貴様は珍しく我が儘を言うな。これも酒のせいか?」
困ったように苦笑いを浮かべながらも、内心ではそういう我が儘さえもまた愛らしいと信長は思うのだった。
「ち、違います。私、酔ってなんか…我が儘だなんて、そんなつもりじゃなくて…今宵はただ、信長様を喜ばせたかっただけで…」
「……は?」
朱里の予想外の発言に、抱き締める腕の力が僅かに緩み、その隙に朱里は自分から信長に抱き着いて口付けた。
これまた予想外の出来事に信長は驚きで双眸を瞠る。この場でこの状況で朱里から口付けられるなどとは想像もしていなかったので、珍しく動揺してしまい、すぐに反応できなかった。
「っ…朱里、貴様、何を…」
愛しい妻からの口付けが嫌なわけはなかったが、不意を突かれた気まずさからか、つい咎めるような口調になってしまった。が、朱里はそれすら気に留めぬほど熱に浮かされたような様子で信長を求めてくる。口の端に小さく何度も口付けながら、背に回した手は夜着の上から信長の身体をぎこちなく弄っている。
いつもは控えめな朱里にしては大胆な振る舞いに戸惑いつつも、触れ合ったところからじわじわと身の奥の熱が上がってくるのを感じる。今宵の朱里の言動は色々と不可解ではあるが、こうして愛しい女に間近に迫られれば男の身体は否応なく昂ぶるものではあった。
「信長さま…今宵は私が…」