第109章 光秀の閨房指南ー其の弐
『今宵は私が…』
そう言うと朱里は信長の夜着の袷に手を滑りこませて直接肌に触れてくる。ひんやりと冷たい手の感触にゾクリと肌が震えるが、その冷たさは信長にとっては寧ろ心地好く感じられた。朱里の手が触れたところは冷たさに震えるのに、それとは反対に身体の奥はじわじわと熱に侵されていくように熱くなっていく。
「っ…朱里、待て」
背中に回された手がゆっくりと撫で上がっていき、冷たい指先がうなじに触れる。不意打ちの擽ったさに、咄嗟に制止の声を上げて朱里の手を捕らえていた。
「っ…いかに貴様でもそこに…触れることは許さん」
険しい顔で手を掴まれて一瞬ビクリと怯んだ朱里だったが、信長の頬が微かに赤くなっているのに目敏く気付く。
(っ…うなじ、擽ったかったんだ。可愛いっ…信長さま)
「信長さま…」
「……ん?」
ーちゅっ…
「っ…くっ…貴様っ…」
うなじにちゅっと口付けると、信長は悩ましげな吐息とともに微かに身体を揺らした。どこか頼りなげなその姿が可愛らしく思えて、首の後ろに腕を回して身を寄せながら更に強めに吸い付いてみる。
「んっ…ふっ…信長さまっ…」
「くっ…あっ、朱里っ…」
酔いのせいか普段より大胆な朱里の振る舞いに戸惑いながらも、身体は正直に快楽を求めて暴れ出す。敏感なうなじに吸い付かれて頭の奥に甘い痺れが走り、全身に心地好さがじんわりと広がっていくようだった。
多少の酒では動じない信長は今宵も異国の酒に酔うことはなかったが、酔った朱里の身体に触れているうちに自分にも酔いが回ったような不思議な感覚に陥っていた。
急速に迫り上がってくる欲の波に突き動かされるように信長は朱里の背中に手を伸ばし、その華奢な身体を力強く抱き締めた。
夜着越しに感じる柔らかな身体はいつもより温かい気がして、すぐにでも直接肌を合わせたくてもどかしい気持ちになる。
艶やかな黒髪に唇を寄せながら、信長は抱き締めた朱里の身体の線を確かめるようにゆっくりと手を這わせていく。
やがて女らしく括れた腰の辺りに到達した手は、当然のように布越しに柔尻をするりと撫で上げてから、流れるような手つきで腰紐をしゅるりと引き抜いたのだった。