第109章 光秀の閨房指南ー其の弐
(よかった、楽しんでもらえてるみたい。私も何だか頭がふわふわして…すっごく気分がいい!)
この新しい酒を気に入ってくれたらしく、次々と酒杯を空ける信長を微笑ましく見ていた朱里だったが、自分もまたいつの間にかひどく気分が高揚していることに気付かないでいた。
「んーっ、美味しいっ!はい、信長様、どうぞー!」
真っ赤に熟れた木苺を摘み上げると、信長様の口元へと差し出す。頭も身体もふわふわして、何だか分からないが楽しくて堪らなかった。
「貴様……酔っているな」
口元にグイグイと近付けられる木苺に些か困惑しながら、信長は朱里の木苺のように赤く色付いた顔を覗き込んで呆れたように言う。
「えーっ、やだぁ…酔ってませんよぅ。うふふ…こんなに楽しいの久しぶり…信長様も楽しいですかぁ?」
「おい、そんなに一気に飲むな。甘くて飲みやすいとはいっても、これは存外強い酒だぞ。くっ、貴様、少し飲まぬうちに随分と酒に弱くなったようだな」
「そんなことないですよぅ…やっ、だめぇ、返して下さい!やだぁ、もっと飲むんだからぁ…」
飲み過ぎを心配した信長が朱里の手から強引に酒杯を取り上げると、イヤイヤと甘えて取り縋る。普段の朱里からは考えられぬ姿に信長は戸惑いを隠せない。
「っ…大きな声を出すでない。吉法師が起きたらどうする?」
「んんっ…大丈夫ですよぅ。ぐっすり眠ってましたから朝まで起きませんよ、うふふ…そんなことより、はい!これもどうぞ!」
酒で気分が高揚しているせいだろう、信長の言うこともあまり耳に入っていないようで、ニコニコと陽気に笑い声を上げながら今度はたっぷりと酒が染み込んだ蜜柑を差し出してくる始末であった。
「酔った貴様は愛らしいが、これ以上はやめておけ。今宵はこれで終いにするぞ」
鷹揚にそう言うと、信長は差し出された蜜柑をパクリと咥えて口内に収めた。
「ええっ…やっ、もっと…もっと欲しっ…んっ、信長さまっ…」
ーちゅっ…ちゅうぅ…
「んっ…くっ…」
いきなり口付けられるとは思わず、眸を見開いて一瞬固まった信長の首に腕を回してぎゅっと抱きついた朱里は、大胆にも唇を重ね合わせたまま口内に舌を這わせてくる。
信長の口内には酒の味が染みた蜜柑が残ったままになっており、朱里の熱い舌がそれを探り当てて転がし始めた。
「んっ…ね、信長さま、欲しいの…」