第109章 光秀の閨房指南ー其の弐
抵抗虚しく光秀さんに言いくるめられて人生初の覗き見を経験した私は、城へ戻ってからも興奮冷めやらぬままだった。
(凄かった…色々凄かった。やっぱり本職(?)の人は違うんだな…って、思い出したらまた恥ずかしくなってきちゃった…)
濃密な情事の光景を思い出してしまい、鼓動が激しく高鳴る。
「……おい、朱里」
「っ…ひゃっ…み、光秀さんっ…」
気持ちが昂り、心ここに在らずな状態でいたところにいきなり声をかけられて驚いて部屋の入り口の方を見ると、先程まで一緒にいて私を部屋まで送ってくれたばかりの光秀さんが立っていた。
「くくっ…どうした?そんなに顔を赤くして。さては一人になって何かやましいことでも思い出していたか?」
「なっ、違いますよ!それより光秀さん、どうしたんですか?私にまだ何か…?」
まだ何かあるのかと、思わず及び腰で問いかける。今日は刺激が強過ぎてもうお腹いっぱいの気分だった。
「そう警戒しなくてもいい。お前に渡すものがあってな」
光秀は警戒心丸出しで己を見つめてくる朱里を見てクッと口角を上げて愉しげな笑みを浮かべると、徐ろに懐に手を差し入れる。
光秀の手元へ視線を向けた朱里の顔が益々不安げに曇るのがまた可笑しくて、光秀は心の内で苦笑いを溢した。
(やれやれ…随分と警戒されてしまったようだ。猫に怯える小鼠のようで愛らしいが…)
その小動物のような愛らしさゆえに益々虐めてやりたくなるのだ、などと光秀が密かに思っているとは露知らず、光秀の前で朱里は不安げに身体を縮こまらせるのだった。
「私に渡すものって…何ですか?また何かおかしなものじゃ…?」
「お前は俺を何だと思っているのだ?その扱いはさすがの俺も傷付くぞ?」
全くもって傷付いていなさそうな口振りで苦笑いしながら、光秀が懐から何でもないような素振りで取り出したのは小さな白い陶器の小瓶だった。陶器ゆえ中は見えないが、取り出した拍子に中身が揺れてちゃぷんっと微かな水音がした。どうやら何か液体が入っているようだった。
「……何ですか、これ?」
受け取れとばかりに目の前に差し出された小瓶を胡乱げに見つめつつ手を伸ばすのを躊躇う私に、光秀さんは小瓶をゆらゆらと揺らしながら妖しげに微笑んでみせた。