第109章 光秀の閨房指南ー其の弐
自分で言っておきながら恥ずかしく、頬がかあっと熱を帯びたのを感じた。慌てて両手で頬を覆う私を見た光秀さんは、喉奥を低く鳴らして小さな笑いを溢す。
「くくっ…相変わらず初々しいことだな。お前のその何年経っても変わらぬ恥じらい深いところもまた御館様の好まれるところなのであろうが…人は常に変化を求める生き物でもある」
「ええっと…あの、光秀さん…?」
話の方向性が掴めず、朱里は困惑したように光秀を見つめる。
「いつも同じではつまらないだろう?年月を経て互いに馴れ合った夫婦と言えど、たまには違う顔を見せる…意外性が必要だとは思わないか?」
「意外性…ですか?」
「そうだ。いつもと違うお前をご覧になれば、御館様は驚き、更に満足なさると思うぞ」
「いつもと違う私…それってどういうこと…です?」
不敵に口の端を持ち上げる光秀さんを見て、嫌な予感が頭の片隅を過ぎる。
「くっ…この俺に指南を乞うのだ。どのような指南か、お前の小さき頭でも分かりそうなものだが?」
「えっ…わぁっ…」
前触れなくポンっと頭の上に乗せられた光秀さんの手に、思わず大袈裟なほどにビクッと肩を震わせてしまった。
(いつの間にか光秀さんに指南を受ける流れになっちゃってるけど、光秀さんの指南って…やっぱり所謂そういう指南だよね?)
「光秀さんっ!さっきも言いましたけど、私は別にそういう指南は…」
求めてない…と最後まで言う前に、長い指先で髪をわしゃわしゃっと掻き混ぜられる。仔犬を可愛がるようなその仕草に戸惑ってしまい、思わず口を噤んでしまった。
そんな私を宥めるように、光秀さんは今度は髪をゆったりと梳く。
頭の上から髪の先までを撫でるような艶めかしいその手付きに、我知らず胸がトクリと揺れ動く。
妖しい光を放つ金色の眸に吸い寄せられるように目が離せなくなった。
「み、光秀さん、私…違っ…」
「遠慮するな。不肖ながら、この明智光秀、指南役を仰せつかったからには御館様があっと驚かれるような手管の数々を奥方様に伝授致そう」
「ええぇ…」
(だから…そういうんじゃないんだってば!誤解です、光秀さんっ!)