第109章 光秀の閨房指南ー其の弐
『信長様に日頃の感謝を込めて何かお返しがしたい』
その気持ちが改めて芽生えた私だったが、どのようなお返しをすればいいのか思い悩んでいた。
(何か品物を贈る?でも信長様の欲しいものって何だろう?信長様が望めば手に入らないものなんてないだろうし…)
異国との交易に熱心な信長様の元には、常に珍しい品々が届けられており、各地の大名達からも折々に高価な品々が献上されていたが、信長が人に何かを求めているところは見たことがなかった。
珍しいものや新しいものを好む信長だが、欲しいものは自ら手に入れるだけの力を持っており、人から贈られるまでもなかったからだ。
(品物がダメなら手料理を作るのはどうかしら?お好きな南蛮菓子を作るのは…いつもどおりで新鮮味がない…かな?)
甘いものがお好きな信長様のために、私は常日頃から異国の料理本を見たり、南蛮寺の宣教師の方から教わったりして南蛮菓子を作っている。
日ノ本の菓子とは使う材料も作り方も異なる南蛮菓子に最初は戸惑ったが、その甘さや独特の風味の虜になり、信長様のために始めたものの今では菓子作りは私の日々の楽しみにもなっていた。
信長様も私の作る菓子を楽しみにして下さっているが、菓子作りはもはや定番となっていて新鮮味に欠ける気もするのだった。
「う〜ん、何か…信長様をあっと驚かせるような贈り物、ないかなぁ?」
信長様は私の誕生日に『天灯』という珍しい光の演出で私を驚かせてくれた。本当に美しかったし、遠く離れた京の地からあのような見たこともない贈り物を頂けるなど思ってもいなかったから、とても感動した。
信長様はいつも思いも寄らぬ方法で私を驚かせ、何でもないことのように涼しい顔で楽しませてくれる。私だってたまには信長様の驚いたお顔が見たいのだが、信長様を驚かせるのは正直言って至難の業だった。
(こうなったら誰かに助けを求めるしかない!)