第108章 離れていても
(言えない…絶対に。信長様を想って一人でシちゃった…なんて、口が裂けても言えないよ。絶対に秘密にしなきゃ…)
あの夜、独り寝の淋しさから一人で己を慰めてしまった。頭の中で信長様の姿を想像して一人で快楽に浸り、溺れ、達してしまった夜だった。快楽に溺れて我を忘れてしまった自分の姿は、今思い出すだけでも恥ずかしい。
これは信長様には絶対に知られたくない秘密だった。
「……貴様、何をそんなにムキになっている?さては、何ぞやましいことでもあるのではないか?」
「な、何言って…や、やましいことって何ですか?何もないですよ!」
「その言いよう…益々怪しい。何を隠しておる?言え、俺に隠し事は許さん」
逃がさないとでも言うかのように抱き締める腕に力が籠り、ぐっと顔を近付けて問い詰められる。先程までの甘い雰囲気が嘘のように追い詰められた緊張感で心の臓がばくばくと忙しなく騒いでいた。
(ど、どうしよう…誤魔化さなきゃ…こんなこと知られたら恥ずかし過ぎるっ…はしたない女だと思われて信長様に嫌われたくない)
「隠し事なんてしてません!の、信長様の方こそどうなんですか?京では毎夜きちんと眠れていらしたのですか?」
「っ……」
苦し紛れに話を切り返すと、信長様は何故か不意を突かれたように言葉に詰まり、息を呑んだ。私の言葉一つで動揺するような人ではない筈だが、ほんの一瞬視線が揺れたような気がした。
「信長様…?」