第108章 離れていても
そうしてしばらくの間、布団の中で抱き合ったまま、まったりと時を過ごすことになったが、気を遣ってくれたのか、いつもの時間に秀吉さんが迎えに来ることはなかった。
次第に明るくなっていく寝所の中で二人きりで過ごす穏やかな時間に、久しぶりに満ち足りた幸福を覚える。
京であった出来事や歌会始のこと、城の者達や子供達の様子など、離れていた時間を取り戻そうとするかのように二人の間で話が尽きることはなかった。
話をしている間も、信長様は私の髪を梳いたり指先で頬を擽ったり、目蓋や耳朶に啄むような口付けを落としたりと全身で愛情を伝えてくれる。
(こんな風に二人でゆったり過ごせるなんて…信長様を独り占めしてる気分。あぁ…幸せだな、私)
ーちゅっ…
幸せに浸り、自然と緩んでしまった頬にすかさず口付けられる。
「んっ…信長さま…?」
「全く…飽きんな。貴様の愛らしさは何度愛でても飽きん」
「っ…そんなこと…」
熱を孕んだ目に見つめられて昨夜愛された余韻が残ったままのお腹の奥がじゅくっと甘く疼く。
もう夜も明けて部屋の中もすっかり明るくなっているというのに、邪な期待に身も心も熱くなり、気持ちは口付け以上の触れ合いを求めてしまい、男らしい胸元にぎゅっと縋り付いた。
そんな私の心を知ってか知らずか、信長様は緩々と身体の線をなぞるばかりでそれ以上深くは触れず、それどころか何でもないような口調で聞いてくるのだ。
「それはそうと…俺が留守の間、貴様、夜はちゃんと眠れておったのか?」
「…えっ?あ…はい、大丈夫…でしたよ?」
「何だ、その微妙な言い方は…何か問題でもあったのか?」
「えっ…や、問題なんてないですよ。ね、眠れてました!眠れてましたとも、ええ、朝までぐっすりです!何故にそんなことをお聞きになるのですか?」
突然の問いかけに必要以上に焦ってしどろもどろになってしまったのは、信長様の一言で独り寝の夜を思い出したからだった。
独り寝の秘密の夜を……