第108章 離れていても
翌朝まだ早い時間に不意に目覚めた私は、まだ覚醒しきらぬ頭を抱え、ぼんやりと部屋の中を見回した。
(ん…もう朝?まだ暗いから…夜は明けてないのかな)
行灯の灯りも消えた室内はまだ暗く、障子の向こうも薄暗かった。
随分と中途半端な時間に目覚めてしまったものだ。いや、目覚めるというほどには眠っていないのかもしれない。昨夜は一晩中、休む間もなく愛を注がれて狂おしいほど濃密な夜を過ごした。いつ眠りに落ちたのか、正直言って記憶がない。
それでも布団の中の身体がきちんと夜着を纏っているあたり、またも信長様が意識を飛ばした私に着せかけてくれたようだった。
(うっ…恥ずかしい。何から何まで…ごめんなさい、信長様)
羞恥と罪悪感に苛まれながらチラリと隣を見ると、信長様はまだ眠っておられるようだった。すぅすぅと小さく寝息が聞こえる。柔らかく口元を緩めた無防備な寝顔は無邪気な少年のようだった。
信長様より先に私が目覚めることは滅多にないことで、寝顔が見られるなんて非常に貴重なことだった。
(ふふ…可愛い。やっぱり昨夜はお疲れだったよね。お留守の間のお仕事も溜まってるんだろうけど…今朝はゆっくりさせてあげたいな。もう少し明るくなったら起こさないようにこっそり抜け出して秀吉さんにお願いに行ってみよう)
眠りの浅い信長様を起こしてしまわないようにと、身動ぐこともしないで再び目を瞑る。
目が覚めたら隣に愛しい人がいる。気を許し無防備な寝顔を見せてくれる。それだけでひどく満ち足りた気持ちになる。
眠る信長様にそっと身体を寄せる。触れると夜着越しに少し高めの体温が感じられて落ち着くとともに再び眠気に誘われてしまい…次第に微睡みの中へと落ちていったのだった。