第108章 離れていても
耳元で低音で囁かれる甘い言葉と身体を這う熱い手の感触に腰の奥が甘く疼く。信長様の膝の上に乗せられている状況が堪らなく恥ずかしくて、もじもじと膝を擦り合わせて身を捩る私を咎めるように抱き締める腕の力が強まった。
「んっ…あっ…」
片手で腰を抱かれながら、もう片方の手で髪を優しく撫でられる。
髪の先まで愛おしむように丁寧に撫でられて、それだけで胸の奥までじんわりと温まるようだった。
「っ、はぁ…信長さまっ…」
「朱里…逢えぬ間、俺がどれほど貴様を求めて止まなかったか…今宵一晩かけて教えてやる。いや、今宵だけでは足りぬな。明日の夜もその次の夜も…何度でも、だ…」
切なげな声音で囁き、掠めるような口付けを一つ落とすと、信長様は私を腕に抱いたまま立ち上がり、そのまま迷いのない足取りで寝所の方へと足を向ける。
「信長さまっ…私も…」
「……何だ?」
(淋しかった…逢えない間ずっと…ううん、本当は信長様を見送ったあの日からずっと…ずっと淋しかった。淋しい、などと口に出してはいけない、信長様に心配をかけてはいけないとずっと我慢してた。でも今宵は…今宵だけは嘘偽りのない本当の気持ちを伝えたい)
言葉に詰まる私を気遣うような優しさに満ちた眸で見下ろされ、信長様の愛情を深く感じる。
「あ…私…あのっ…んっ…」
淋しかった気持ちを伝えたいとは思いながらも、俄かには上手く言葉に出来なくて…もどかしさから信長様の首の後ろに腕を回してぎゅっと縋り付いた。
「……離さないで。ずっと…お傍にいさせて下さい」
「っ…朱里っ…」
小さな声でそれだけ言うのが精一杯だったが、信長様は応えるように強く抱き締めてくれた。
今宵もまた外は凍えるような寒さだったが、愛しい人と二人で過ごす冬の夜は独り寝の夜とは違い、寒さなど微塵も感じなかった。
その夜二人は募る想いを曝け出し、身の奥に燻る熱情を解放し、互いの欠けた部分を埋め合うようにして一晩中愛を確かめ合ったのだった。