第108章 離れていても
「本来なら間近で見せてやりたかったが…」
信長は眉尻を下げ、すまなそうに言いながら手を伸ばし、朱里の頬を指先でするりと撫でる。
柔らかな羽毛で撫で上げるような優しさで軽く触れられただけなのに、トクンッと心の臓が勢いよく跳ねる。
「い、いえ、そんな…離れていても大丈夫でしたよ。間近で見るよりは小さかったかもしれないですけど、ここからでもよく見えましたし、とっても綺麗で…今年の生まれ日は忘れられぬ一日になりました」
見つめられながら優しく触れられてドキドキと騒ぐ鼓動が止められない。このままでは煩く騒ぐ心の臓の音が聞こえてしまいそうで信長様から距離を取ろうと身を捩る私の腕を、信長様はいきなりグイッと引き寄せた。
「あっ……」
男らしく逞しい腕の中に柔らかく囲われる。夜着越しに厚い胸板が頬に触れ、湯上がりのシャボンの香りが鼻腔を擽った。あっと思う間に膝の上に乗せられて背中から抱き締められる。耳元に熱い吐息がかかり、再び胸の鼓動が大きく跳ねた。
「の、信長様…?」
「離れていても大丈夫だった…などと、つれないことを言うではないか、ん?」
「そ、それは天灯の光のことで…っ、ンッ…」
サラリと髪を掻き上げられたかと思うと、頸(うなじ)に熱い舌が這う。ちゅっ、ちゅっと、あからさまな水音を立てられて羞恥に頬が熱くなる。
「んっ…あっ…やめ…やっ…違っ…」
「くくっ…何が違う?俺は逢えぬ間もこんなにも貴様を求めて止まなかったというのに、貴様は違うと言うのか?ん?どうなのだ?」
ーちゅっ…ちゅうぅ…っぷっ…
「やっ、ンッ…痛っ…」
首筋にチクッとした痛みを感じて身を震わせる私を、信長様は更に強く抱き竦める。
歯を立てられた淡い痛みと身体に回る強い腕の力に頭がくらくらとしてしまい、為す術もなく信長様の胸にくったりと背を預ける形になった。
「っ、はぁ…は、あっ…」
「朱里…今宵は俺に貴様の嘘偽りのない本音を聞かせよ。何一つ隠すことなく全てだ。さすれば今宵は忘れられぬ夜にしてやる」
(嘘偽りのない本音を聞かせる…?心のままを…曝け出せと?思うままに…信長様、貴方を求めてもいいのですか?)