第108章 離れていても
(まぁ…あの子達ったら、お部屋で暴れて…大丈夫かしら?)
室内には信長様の大切なもの、高価な南蛮渡りの品々が多く置かれていて、何も知らない子供達が不用意に触れて壊してしまうのではないかと急に心配になってくる。
結華は年の割にしっかりしており、幼いながらも姉らしく何かと吉法師の世話を焼いてくれていたから二人だけにしていても大丈夫だと無責任にも思っていたのだが、そもそもまだまだ遊びたい盛りの年頃の子供なのだからじっとしていられるわけがないのだ。
(やっぱり子供だけにしておくんじゃなかった。外は寒いけど二人も一緒に外へ連れて来よう)
「結華、吉法師…あのね…っんっ…?」
二人のいる室内へと足を向けかけた、その時だった。空の彼方にぼうっと淡い光が浮かび上がったのは………
「えっ…あれは…何?」
突如として空に浮かび上がった小さな光は一つ、二つ、三つ…と数を増やしていく。
よく見ていると、突然空に現れたわけではなく、光は地上からゆっくりと上ってきているようだった。
暗闇に浮かぶ小さな淡い光がゆらゆらと揺れている様子に最初は星のようだと思ったが、よくよく見れば周りの星々とはどことなく色合いが違う。光はゆらゆらと揺らめいてはいるが、星のようにチカチカと瞬いてはいなかった。
(遠いからよく見えないけど星とは違うみたい。星でなければ…蛍?いやいや、蛍なんて季節外れもいい所だわ。今は冬、凍えるぐらいの寒空に蛍が飛んでいる訳がないし…ましてやこんな空高くに蛍がいる筈がない。それじゃあ、あれは一体…あんなに沢山の光、見たことがない)
初めて見る光景に目を奪われている間にも、光はどんどん数を増やしていた。暗闇にぽつぽつと浮かび上がる丸い光は柔らかな色でとても美しく、目が離せなかった。
「母上、どうしたの?何かあったのですか?」
「はは…どした?」
子供達の心配そうな声が聞こえて、はっと我に返る。
空の光が気になりつつも、子供達を迎えに部屋の中へと入る。
障子を開けると、二人の期待に満ちた弾けんばかりの笑顔に出迎えられる。
(ふふ…可愛いな、二人とも。やっぱり寒くても一緒に待っていればよかったな)
「結華、吉法師、お外に出てごらん」