第108章 離れていても
「ありがとう、秀吉さん。あの、いつも色々と気遣ってくれてありがとう。北条家から織田家に来て今日まで、秀吉さんがいつも支えてくれたから、今、私はこの場所でこんなに幸せな生まれ日を迎えられている。ありがとう。これからも宜しくお願いします」
秀吉さんへの日々の感謝を伝えようと居住まいを正して言うと、秀吉さんは驚いたように目を瞬かせた。
「き、急に改まって礼なんか言うなよ(そんなこと言われたら嬉しすぎて慌てちまうだろ…)。お前は御館様の最愛で、俺にとっても大切な妹分だ。大事にするのは当たり前だろ?俺はこれからだってお前が嫌になるぐらい構い倒してやるつもりなんだからな」
「ふふ…ありがとう」
照れたように少し顔を赤くしながらも、朱里を見つめる秀吉の眼差しは慈愛に満ちていて、その人柄の誠実さが滲み出ているようだった。
「あーっ、母上だけズルいっ!秀吉、結華もよしよしして!」
「きちも!きちも、よちよちするー!」
秀吉さんが照れ隠しのように私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれたのを見た結華と吉法師は、すかさず自分達も、と声を上げる。
秀吉と朱里を囲み、子供達はワイワイと賑やかに騒ぎ出す。
途端に賑やかな喧騒に包まれる部屋の様子に自然と笑みが溢れた。
思いがけず届いた信長様からの文は、ともすれば不安に揺れる私の心を穏やかに癒してくれた。こんなにも想ってくれる人が自分の周りには沢山いるのだと…たとえ離れていても一人ではないのだと…改めてそう思えた幸せな誕生日の朝だった。