第108章 離れていても
「よかったな、朱里」
「うん!京はまだ雪が降り続いてるみたいだけど、信長様がお変わりないご様子で安心したよ。あ、でも、これってどういう意味だろう??」
「ん?」
「ほら、これ、『生まれ日の酉の刻に天主から京の方角の空を見よ』って…私への祝いの品を贈るって、どういうことかな…」
「空を見ろって…何だ、謎かけみたいだな」
「そうだね…それに空からの祝いの品って何だろう?」
天高く聳え立つ大坂城の天主からは京の方角も見渡せるが、空から祝いの品を贈るというのも不思議な話だ。
信長様の文にはそれ以上のことは書かれておらず、皆目見当が付かない。祝いの品にも心当たりはなく、そもそも京で土産を買い求めるから欲しい物を言えと問う信長様に、遠慮した私はこれといって何も望まなかったのだ。
(私は信長様と一緒にいられたら他には何もいらない。高価な衣装や煌びやかな装飾品に全く興味がないわけではないけど…そういうものはなくても困らないもの。そんなものがなくても、この身一つで信長様のお傍にいられるだけで幸せだから…。それにしても、空から贈り物が降ってくるわけでもないだろうし、これは一体どういう意味なんだろう…)
謎かけのような文の内容に困惑しつつ、もう一度隅々まで目を通し、更には裏返したりもしてみたが、文には特に変わったところは見当たらず、そこに書かれている以上のことを読み解くことはできなかった。
文を穴が開くほどじーっと見つめたり、何度もひっくり返したりしていると、それを見ていた秀吉さんが苦笑いを浮かべて言う。
「その文自体にはどうやら仕掛けはなさそうだな。御館様の深いお考えは俺には到底思いも及ばないが…少なくとも御館様は朱里をがっかりさせるようなことはなさらない御方だということは断言できるぞ」
「ふふ…そうだね。信長様はいつだって私を驚かせて下さる御方だものね。お言葉に従って今宵は子供達も一緒に天主で空を見上げてみるよ」
「ああ、祝いの宴は御館様がお戻りになられたら盛大にやってやるから楽しみにしてろよ」