第22章 心の棘
その時、襖の向こうで小姓から声が掛かる。
「申し上げます!
ただ今、朝廷のお使者より文が届いております!」
一瞬広間の空気が固まり、その後ざわざわと皆がざわめく。
「……朝廷より文だと?
このややこしい時に……面倒な…」
「……御館様、例の件ではないですか?
年始に届いた、官位の打診についての催促では?」
年始には家臣や大名達から数多く挨拶を受けたが、その中には朝廷の帝からのお使者もあった。
その折に、俺に官位を授けるから受けるように、との打診があったのだった。
具体的には『関白、太政大臣、征夷大将軍、の三つの官位のうち、何れでも好きな官位を選べ。選んだ官位を授けよう』という、とんでもないものだった。
官位などという朝廷のお墨付きがなくても天下を治めることはできる。
寧ろ官位などという煩わしいものは俺には不要だ。
そう思って断るつもりで返事を保留していたのだが………
小姓から文を受け取り、皆がじっと見守る中で文を開く。
文の内容はやはり返答を催促するものであり、上洛して直接返答せよ、とあった。
文を読み進め、最後の一文を見て思わず目を疑った。
「何れかの官位に任官するとともに、現関白である近衛氏の姫を正室として娶るように」
近衛殿の姫だと?
確かに公家の中では近衛殿とは気心も知れていて比較的親しくはしているが、当然娘とは面識はない。
帝のお声かがりの縁談……これは簡単には断れぬ。
よりにもよってこの時期に、こんな話を打診してくるとは……
例の家老どもが知ったら、諸手を挙げて推し進めるに違いないような話だ。
絶対に外に漏れてはならん……無論、朱里にも。