第22章 心の棘
軍議の席にて
秀吉がいつものように領地の様子や最近傘下に入った大名達の動向について報告しているのを、手元の扇子を弄びながら聞く。
「………以上でございます……御館様?」
「……っ、ああ、聞いている。
引き続き不穏な動きがないか注意を怠るな」
「はっ、かしこまりました」
この場に朱里はいない。
いつもならお茶を入れてくれた後、広間の隅に控えて静かに我らの話し合いを聞いているのだが。
軍議の前に部屋を訪れて、武将達だけだから一緒に来いと声を掛けたが、今日もやはり部屋から出て来てはくれなかった。
「ああ〜っ、もう限界だっ。
信長様っ、朱里は大丈夫なんですか??
飯も全然食ってくれねえし、部屋の中でしか会ってくれねえし…」
政宗がイライラして頭をがしがしと掻きむしりながら聞いてくる。
「よせ、政宗。一番お辛いのは御館様だぞ」
「政宗さんの気持ちも分かりますけど、心の傷は身体の傷と違って治すのが難しいんですよ」
「家康様の医術の知識を以ってしても、難しいのですね」
「御館様…御家老達への説得の方はいかがでしたか?」
「………俺なりに説明は尽くした。朱里以外を正室に迎える気はない、と。彼奴らが心から納得したかどうかは定かではないが、俺に正面切って反対は唱えなかった…いや、唱えられなかった、と言うべきか…」
(どんな説得の仕方したんだ??)
「では、あとは朱里の気持ち次第ですな」
「ああ、それが一番厄介なんだがな」