第108章 離れていても
天候が芳しくないまま迎えた誕生日当日
「母上、お誕生日おめでとうございます!」
「はは、おめっとう…ござぁます?」
朝餉の席で子供達から思わぬ祝福の言葉を貰った私は、驚きながらも喜びに顔を綻ばせた。
「ありがとう、二人とも。二人が一番におめでとうって言ってくれて、母様すごく嬉しいよ」
「きち、いちばん?やったぁ!」
『一番』という言葉に反応して嬉しそうに声を上げる吉法師の頭をよしよしと撫でてやると、益々嬉しそうにその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
素直に身体で喜びを表現する子供の愛らしさに、こちらも思わず笑みが溢れる。
「母上、これ、お祝いの品です」
そう言って結華は後ろ手に持っていたものをそっと差し出した。
「わぁ…綺麗…これ、もしかして結華が作ったの?」
それは色和紙の上に飾られた押し花の花束だった。
色とりどりの花びらで飾られた花束は色鮮やかな色彩を放っていて、その美しさに目を奪われる。
「こんなに沢山の花びらを集めるの大変だったでしょう?」
冬のこの時期は花の色合いや種類も少なく、多くの花びらを集めるのは大変だっただろう。押し花は何度か一緒に作ったことがあり、作り方は覚えていたのだろうが、結華が一人で作るのは初めてだったに違いない。
「お城の庭のお花を摘んだり、千鶴と秀吉に城下外の野原に連れて行ってもらったりして集めたの。母上の好きな白いお花も見つけたよ!」
「きちも!きちもお手伝い、した!」
(ええっ…吉法師も?いつの間に…)
母にべったりで最近はどこへ行くにも後をついて回っていた吉法師が、いつの間に花集めなど手伝っていたのかと不思議に思っていると、結華が姉らしく優しく笑いながら吉法師の手を取って言う。
「吉法師はお花を貼るのを手伝ってくれたのよね?」
「うん!きち、お花ペタペタした!楽しかった!」
「そうなの?上手に出来たね。とっても綺麗に貼れてるよ。結華、吉法師、素敵な贈り物をありがとう。母様、本当に嬉しいわ。これは天主のお部屋に飾って、父上がお帰りになられたら見てもらいましょうね」
「母上、父上はいつお戻りになるのですか?今日は母上のお誕生日なのに…父上がいらっしゃらないのは淋しいです」
「……ちち、どこ? ずっといないね」
それまで笑顔を見せていた二人だが、父親の不在を改めて思い出したのか顔色が曇る。