第108章 離れていても
『信長さまっ…愛しています』
「っ……」
京へ立つ前の夜、名残を惜しむかのように何度も深く身体を交わらせた。用事を済ませればすぐに戻るつもりであったが、それでも己の証を朱里の身体の隅々に余すところなく刻み付けずにはいられなかった。
本音を言えば京へも同行させて、片時も離れず傍に置いておきたかった。
『あっ…んっ、や、痛っ…』
抑えが効かず、独占欲も露わにきつく跡が残るぐらい口付けて、朱里が痛みに堪えて目を潤ませている姿にすら欲情した。
堪えきれずに溢れる艶めかしい声を聞くだけで、身の内から焦がされるような熱情を覚えた。
凍えるような冬の寒さも朱里と共にあれば少しも寒くはなく、身も心も温かく満ち足りていられた。
「っ…寒いな」
身を切るような寒さにふるりと震えが走り、綿入りの掛布を肩まで引き上げるが、冷えた身体は容易には暖まらない。
外はまだ雪が降り続いているのだろうか、夜も更けて物音一つしない静かな夜だった。
眠れぬ夜には慣れているはずなのに、厳しい寒さが人肌を求めるせいなのか、どうにも気持ちが落ち着かなかった。
『信長さまっ…んっ、あぁ…もっと…』
「くっ……」
身体を重ねて奥へと深く分け入ると、朱里はビクリと腰を震わせて悩ましげな声を上げた。繋がった部分をぴったりと重ね合わせてゆるゆると突けば、蕩けるような甘い声で名を呼び、もっと…と強請る。鈴を転がしたような可愛らしい声が、交わりが深くなっていくほどに艶めいた大人の女の声になっていく。
『信長さまぁ…』
ーズクンッ…
「くっ…うっ…」
甘えるような朱里の声が耳の奥に響いて、腹の奥底がかあっと熱くなる。一向に暖まらなかった身体は、想像の中で愛しい女の声を聞いただけで疼き始める。
身の奥にじんわりと広がり始めた熱を逃さんと固く目を閉じたが、一たび点いた情欲の火は容易には鎮まりそうになかった。
「っ、くっ…朱里っ…」
次第に荒くなっていく息遣いの下、思わず溢れるように名を呼べば、一層の激しい渇望に胸の奥がぎゅうっと締め付けられた。
寒さで冷え切った身体はいつの間にか身の内に熱が籠ったように熱くなり、じっと横になっていられなくなって、乱れる呼吸のままに褥の上に身を起こした。