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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第108章 離れていても


「まぁ、もう一度こちらからも京へ文を出してみる。ただ待ってるだけじゃ埒があかないからな。朱里もあんまり心配し過ぎるなよ」

「うん…ありがとう、秀吉さん」

私を安心させるように穏やかに微笑んでくれる秀吉さんに、私もまたありったけの笑顔で返した。

(この雪が溶ければきっとお帰りになるはずだから…焦らずに待っていよう。特別なお祝いなんてなくてもいい。信長様が無事にお帰りくださったらそれだけで…)

生まれ日を共に過ごすという約束は、このままだときっと叶わないだろう。それは少し淋しくもあったけれど、たとえ離れていても愛しい人がただ健やかであることこそが私にとっての幸いだった。

雪に閉ざされた京の地は、冬の寒さも一段と厳しいことだろう。京の冬は大坂とは比べ物にならぬほどの厳しい冷え込みだと聞いている。本音を言えば、私がお傍で信長様の冷えた身体を暖めて差し上げたいと思う。
今すぐ信長様のお傍に行きたい…湧き上がる切なる願いは視界を真白に覆う一面の銀世界によって儚くも掻き消されていく。
叶わぬ願いを秘めた胸の内を秀吉さんに悟られないように、その後も私は努めて明るく振る舞ったのだった。





「はぁ…寒いっ…」

その夜は酷く冷え込み、私は一人、広い寝台の上で身を縮こまらせていた。
綿入りの掛布を首まできっちり引き上げて布団の中で小さく身を丸めても一向に暖まらず、震える身体を両腕で掻き抱いては冷たい敷布の上で忙しなく足を擦り合わせていた。

(今宵は特に冷えているみたい…もしかしてまた雪が降っているのかしら)

ぼんやりと淡い光が揺らめく寝所の中はシンっと静まり返って音もなく静かで、身を捩る際の衣擦れの音だけがしていた。
障子の向こうの静けさが音もなく降る雪を連想させ、身体の芯が少しずつ冷えていくような気がする。

「……眠れない」

ポツリと小さく呟いた声は、深い夜闇に紛れて消える。

信長様不在の夜はただでさえ寂しくてなかなか寝付けないというのに、今宵は全身を襲う寒さのせいもあって酷く寝付きが悪かった。
布団の中でじっとしていれば少しは暖まるのかもしれないのに、どうにも落ち着かなくて、もう何度目か分からない寝返りを打つ。


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