第108章 離れていても
天蓋付きの大きな寝台は、華奢な朱里が右に左にと寝返りを打っても充分過ぎる広さがあったが、女の独り寝にはあまりにも広過ぎた。それがかえって愛する人が隣にいない空虚さを実感することにもなり、より一層の寒々しさを感じてしまうのだった。
(やっぱり自室で寝ればよかったかな。ここだと一人は淋しいし、落ち着かない…信長様を感じ過ぎてしまって…)
寝台の広さもだが、寝具やその他の香り、寝所の空気からでさえも、そこはかとなく信長の存在を感じてしまう。
普段ならそれは好ましいことなのだが、いつ逢えるとも知れぬ離れ離れの状態では恋しさが募って胸を苦しくするばかりなのだった。
信長がいない夜の淋しさにいつまで経っても慣れない己の弱さに情けなくはなるが、こればかりはどうしようもなかった。
「っ…信長さまっ…」
名を呼べば益々恋しくなると分かってはいても、呼ばずにはいられなかった。冬の寒さが身体だけでなく心にまで沁み渡るようで、淋しくて恋しくて堪らなかった。
けれども、当然ながら呼びかけに答えるものはなく、冷え切った身体が暖まることもない。
こんな夜をあと何度過ごせば貴方に逢えるのだろう。
その逞しく男らしい腕に抱き締められて穏やかな眠りにつける夜が来るのはいつになるのだろう。
冷えた身体を互いに暖め合い、互いの存在を深く感じ合いながら迎える朝は、幾夜眠れば訪れるのだろうか……
「っ…信長さまっ…逢いたい」
逢いたいと一度(ひとたび)口に出してしまえば恋慕の情は抑えられず、狂おしいほどに身を焦がす。冷え切った身体とは対照的に胸の奥が燃え上がるような熱を持って熱く疼く。
『朱里…愛してる』
「っ、んっ…はぁ…っ…」
京へ立つ前の夜、閨の中で甘く囁かれた愛の言葉が甦り、身体の芯をズクリと重く疼かせる。
『朱里…もっと俺を感じろ。もっと深く…もっと奥までだ』
「んんっ…やっ…あぁっ…」
(やっ…どうしてこんなに…んっ、奥っ、熱いの…信長さまっ…)
急に熱く疼き始めた身体に心がついていけず、苦しさから両腕で己の身を強く抱き締める。
『朱里、愛してる。何があろうと決して貴様を離さん』
「あっ、んっ…やぁっ…」
達する瞬間、信長様に強く身体を抱き締められた感触が甦り、それだけでビクビクッと小さく身体が震えてしまう。
(んっ…もぅ、我慢できな…いっ…んっ、ふっ…)