第22章 心の棘
あの日以来、朱里は自室から外へ出ることを極端に怖れるようになり、夜も共に過ごすことがなくなった。
食欲も落ちている様子で、政宗が心配してあれやこれやと作っては差し入れているようだが、それもあまり口にしていないと聞く。
昼間政務の合間に逢いに行くと、少し元気な顔を見せてくれるが、以前のように触れ合おうとすると、やたらと人目を気にする素振りを見せるようになった。
家老どもの陰口であれほど朱里が傷つくとは、思いもしなかった自分自身に腹が立つ。
親父の代から織田家に仕えてきた彼奴らは、俺が年若い頃には俺をうつけと侮り不遜な態度を隠そうとはしなかった。
弟に味方して俺に刃を向けた者もいるが、それでも役に立つと思ったから許した者もいる。
俺が家督を継いで織田家が大きくなってからは、一応は俺を当主として認めているらしいが、俺からすれば古い考えに凝り固まった老人どもにしか思えない。
俺が、古く悪しき慣習を壊して、新しいものを取り入れようとする度に年長者面をして意見をしてくる彼奴らに手を焼いて、安土からは距離を置いていたのだが……。
それでもここまで織田家に仕えてきた労には応えてやらねばなるまいと、いずれは奴等が持ってくる縁談の一つでも受けて正室を迎えねばならないかとも思っていた………
朱里に逢うまでは。
朱里は……俺が初めて自分から欲しいと思った女だった。
その身体だけでなく、心までも欲しい、と思えた唯一人の女。
その笑顔を見れば安らぎを感じ、その涙を見れば心が苦しくなる。
そんな感情を俺にもたらしてくれた、得難い女。
妻にしたい、と願いながらも、俺の妻になれば危険な目に遭わせるかもしれぬ、となかなか思い切れなかった。
ようやく思い切ったと思ったら、家中の老害から横槍が入るとは……全く腹立たしい。
朱里を失いたくはない
俺は今、朱里の為に何をしてやれるだろうか…