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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第108章 離れていても


光秀と同じく空を見上げた信長は、顔に落ちかかる雪を指先で払いながら深く溜め息を吐く。

「致し方あるまい。雪が止むまでは動けぬ」

「はっ…しかしそれでは…」

この雲行きではいつ止むかも知れない。止んだところで直ぐには出立できないことは分かりきっていた。

「……間に合わぬ、か。全く…このような儚げなものに俺の道行きを阻まれようとはな」

舞い落ちる雪の華を手のひらで受け止めた信長は、一瞬のうちに儚く溶けて形を無くしたそれをきゅっと握り締める。
手の内の雪は冷たさを感じる間もなく消えたが、信長は行き場のないもどかしさを閉じ込めるかのように、暫くの間、握った拳をそのままにしていた。



一方、大坂では信長の帰城を心待ちにしながら、秀吉らが朱里の誕生日祝いの準備を進めていた。
京と同じく大坂でも雪が降り積もり、城下は真っ白な雪に覆われて人の往来や物資の流通も滞りがちであったが、秀吉と三成が素早く対応したことにより城下の民達に不都合が生じる事態には至っていなかった。

「よし、これで大体の準備はできたな。御館様がいつお戻りになっても始められるぞ」

「秀吉さん、お疲れ様。あの、色々準備してくれてありがとう。信長様がいらっしゃらなくて忙しいのに、ごめんなさい」

厨で宴の準備の最終確認をして満足げに頷く秀吉に、朱里は至極申し訳なさそうに声を掛けた。
正月三が日が過ぎて漸く少しゆっくりできるかという頃に毎年自分の誕生日が来ることに、朱里は密かに何とも言えない後ろめたさを感じていた。
毎年正月明けは城内が何かと忙しなく、そんな中で皆が自分の誕生日祝いの準備に時間を割いてくれているのが申し訳なくて、毎年居た堪れない気持ちになっていたのだ。
だから信長が『誕生日当日に盛大に祝ってやる』と言ってくれて本心では本当に嬉しかったのだが、自分のために無理をさせてしまうのではないかという後ろめたさもあって、素直に喜んだ顔を見せられなかった。

(可愛げがないって思われちゃったかな。本当は嬉しかったのに…『早く帰ってきてほしい』って素直に甘えればよかったな。信長様…今、どうしていらっしゃるだろう)

数日離れているだけで、こんなにも不安で淋しくなる。
不安で不安で堪らなくて、降り積もる雪に隔てられてこのまま逢えなくなってしまうのではないか、などと愚かな考えに囚われてしまうのだ。


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