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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第108章 離れていても


「これはまた…思った以上に降っているな」

歌会始とその後の諸々の催しを終えて御所の門を出た信長は、目の前の光景に思わず息を呑んだ。

昨日から断続的に降っていた雪は、今朝信長が御所に上がる頃にも降り続いていたが、よもや数刻の内にこれほど天候が酷くなっているとは思わなかった。
都大路は見渡す限り一面雪景色となっており、通りに面した家々の屋根にも雪が厚く降り積もっている。
この天候では出歩く人も少ないのか、日暮れにはまだ刻があるというのに辺りはどんよりと薄暗く、通りにはひと気もなく、それによって余計に雪が積もりやすくなってしまっているようであった。

ひっきりなしに舞い落ちる白い華に目を奪われている内にも、冷たい雪は信長の髪や着物を濡らしていく。

「御館様、こちらを」

傍らに控えていた光秀は信長に外套を差し出した。
それは『合羽』と呼ばれる南蛮から伝わった外套で、雨や雪よけ用に身に付けるものであった。
この時代の雨具としては、庶民は藁を編んだだけの蓑(みの)や笠を身に付け、武士や僧侶などは柿渋を和紙に塗った紙子(かみこ)と呼ばれる羽織を使用していたが、南蛮との貿易が盛んになると羅紗(らしゃ)と呼ばれる厚手の毛織物で作られた合羽が大名など権力者の間で広まっていった。
信長が身に付けている緋色の合羽は、「猩々緋(しょうじょうひ)」と呼ばれる赤みの強い赤紫色の最高級の布地で作られたもので、堺に出入りする南蛮商人から献上された一級品であった。

猩々(しょうじょう)とは、龍や麒麟などと同じく中国の伝説上の獣で、人に似た顔、子供のような声、鮮やかな赤い体毛を持ち、体つきは犬や猿に似ている生き物だという。その血は非常に色鮮やかな赤い色であるとされ、猩々の血で染めたような色合いは猩々緋と呼ばれ、古くから珍重されてきた色であった。


「これはすぐには止みそうもないですな。京の町中でこれほどの積雪ならば、街道は恐らく雪に閉ざされているはず。数日は通れぬでしょう」

目深に被った菅笠を右手で押し上げながら、光秀は降りしきる雪を見上げて悩ましげに言う。
光秀が身に付けている蓑や菅笠の上にも見る見るうちに雪が降り積もり始めていた。

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