第108章 離れていても
柔らかな雪を踏むと、ギュッという音がして踏み固められる感触は子供だけでなく大人になった私ですら楽しくて心が踊る。
着物の裾がしっとりと雪に濡れているのが分かったが、見て見ぬ振りをして更に深く雪を踏む。
(千代に見つかったら『はしたない』って怒られちゃうかな?でもこんな機会、滅多にないもの…大人だって楽しみたい!)
「母上、雪だるま、作ろ!」
「ゆき…だーま?」
庭に降り立った私に、子供達は嬉しそうに駆け寄ってくる。
結華がお姉さんらしくさり気なく吉法師の手を握って転ばないように気遣ってくれているのが何とも微笑ましい。
「吉法師、『雪だるま』だよ!こういうのの、もっと大っきいのを作るんだよ」
「これ?おっきいだーまさん?きち、つくる!」
即席で作った小さな雪だるまを手渡しながら、結華が身振り手振りで大きな雪だるまの作り方を説明してやると、吉法師はキラキラと目を輝かせた。
早速、嬉々として雪玉を転がし始めた二人を手伝っていると、その愛らしく微笑ましい様子に雪中の寒さも忘れて暖かな心地になるのだった。
大人達には厄介な雪の日も幼い子供達にとっては物珍しく愉しいばかりなのである。
(ふふ…二人とも可愛いなぁ。信長様にも見せてあげたかったな)
この場に信長がいれば、子供達を優しく見守り、時には一緒になって雪遊びに興じてくれただろう。
この様子ではきっと京でも雪は降っているだろうと思われ、信長たちのことは心配ではあったが、雪を前にした子供達の屈託のない笑顔を見ていると雪の日も悪くはないと思えてしまうのだった。