第108章 離れていても
「母上っ!見て!こんなに沢山積もってるよ!うわぁ〜埋まっちゃう!」
「結華ったら…転ばないように気を付けてね…って、わぁっ!吉法師!待って待って…勝手に降りちゃダメだよ!」
辺り一面、深く雪が降り積もった庭で足先を雪に埋めながら歓声を上げる結華に声を掛けていた私は、隣で一緒に庭を見ていた吉法師が繋いでいた手を振り払って裸足のまま庭に降りようとするのを見て慌てて声を上げた。
「ねぇね、きちも!きちもあそぶ!」
私の制止を振り切ってあっという間に庭に飛び降りた吉法師は、着物を雪塗れにしながら結華の元へと走り寄る。
その姿はまるですばしっこい小さな動物みたいだった。
(うっ…動きが早いっ!もうあんな所まで行ってる…まるで小さな栗鼠みたい)
つい数ヶ月前に歩き始めたばかりとは思えぬほどしっかりとした足取りで姉の元へと辿り着いた吉法師は、好奇心たっぷりの瞳で辺り一面の雪を見回してから、小さな手をむんずと雪の中に突っ込んだ。
「ちめたい(冷たい)っ!」
想像以上の冷たさに驚いた声を上げながらも、埋もれた手で雪を掴んでは、握ったり離したりを繰り返す。何度かそうして雪の感触を楽しんでから次に裸足の足で雪の上をぴょんぴょんと跳ね始める。
ふわふわの雪がギュッギュッと踏み固められる感触が楽しいようで足先が濡れるのも厭わずその場で何度も飛び跳ねては歓声を上げている。
「わぁぁ!」
(あぁっ…裸足であんなに雪に埋もれて…冷たいのに大丈夫かな?いや、それよりも滑って転んだりしたら大変だわ)
傍目にも興奮してはしゃいでいる様子が伝わってきて、子どもらしく微笑ましい姿だとは思いながらも、親としては色々と心配になり気が気ではなかった。
吉法師にとって雪は生まれて初めて見るものだった。
昨夜降り始めた頃にも興味津々で空から舞い落ちる雪に目を奪われた様子でしきりに外に出たがっていたのだが、今朝は起きて早々に一面の銀世界を目の当たりにして興奮を抑えられないようだった。
(子供達にとって、雪の日はやっぱり特別だよね。特に吉法師にとっては初めての雪だもの、寒さなんて気にならないよね。あぁ、楽しそうな二人を見てたら私も雪に触れたくなってきちゃった)
子供っぽいとは思いながらも、うずうずと湧き上がる好奇心が抑えられなくなった私は、いつの間にか庭に向かって足を踏み出していたのだった。