• テキストサイズ

永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第107章 嫉妬は甘い蜜の味


請われるまま手合わせをすることになった信長は、道場で勘十郎と向き合っていた。
木刀を構える勘十郎は緊張を隠せない硬い表情で、ぐっと信長を見据えている。
一方の信長はといえば、木刀を持った腕を下ろしたままでゆったりとその場に立っていた。

「いつでも構わん。かかって来い」

「はっ!っ…やぁ!」

野性の獣のような雰囲気を醸し出す兄を前にして、見るからに全身から緊張が滲み出ている勘十郎であったが、それでもキュッと表情を引き締めて信長に挑んでいく。

掛け声とともに向かってくる勘十郎を信長は軽やかな身のこなしでサラリといなすと、返す刀で鋭い一撃を肩口へと打ち込んだ。

「わっ……」

強かに打たれることは辛うじて避けられたが、身体の均衡を崩した勘十郎はその場に尻餅を付いてしまう。
慌てて起き上がろうとしたその鼻先へ、ピシャリと突き付けられた信長の木刀の剣先は全くと言っていいほど迷いがなかった。

「っ…あっ……」

「まだまだだな、勘十郎。そのように隙だらけの動きでは戦場ですぐに命を失くすぞ」

「くっ…兄上っ、もう一度!もう一度お願いします!」

素早く立ち上がって木刀を構え直す弟の姿を、信長は意外な思いで見遣る。

(勘十郎は俺と違って大人しく剣術よりも学問を好むような男だと思っていたのだが…意外にもやる気があるようだ。まだ未熟な太刀筋だが、それ故に鍛え甲斐がある。幼き頃から離れていたとはいえ、今更ながら此奴のことで俺は知らぬことが多いようだ)

傍目から見る印象や周囲の噂を信じ、信長は弟の真の姿を見ていなかったのだと思い至る。弟が何を考え、何を望んでいるのか知ろうとしなかった。
それは弟だけでなく父や母に対しても同様だったかもしれない。
自分を理解してくれぬ者に対して、自分もまた相手を理解しようとしなかったし、自分自身を理解してもらうような努力もしようとしなかった。
人とは互いに分かり合えぬもの、家族であっても同じだと思っていた。

(己の歩んできた道を後悔などしていない。命を奪っておいて後悔するなど死者に対する冒涜だとも思う。死んだ者は還って来ない。俺は己が奪った命の重さを背負って先へ進まねばならん。それが俺が選んだ道だ。だが……)

こんな風に少し道が違えば、弟と…家族と…互いに分かり合える道もあったのかもしれないと、そんな風に思えてならなかった。


/ 1937ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp