第22章 心の棘
朝餉の後、朱里の自室を訪ねる。
「朱里、俺だ。入るぞ」
襖を開けて中に入ると、朱里が一人ぼんやりと座っており、こちらを見て力なく微笑む。
「体調が悪いと聞いたが、起きていて大事ないのか?」
「ごめんなさい…」
「……家康から聞いた。
家老達には俺から話をする……貴様は何も心配することはない。
朱里…俺が生涯を伴にするのは貴様だけだ。
俺の妻として、俺の隣で笑っておれ。
貴様の笑顔は俺が守る。
もう……泣かせたりはせぬ」
「信長様…」
朱里の身体を抱き寄せて、自らの腕の中に閉じ込める。
華奢な身体は折れてしまいそうなほどに頼りなくなっていた。
口づけようと顔を近づけると、朱里の身体が僅かに強張り、細い腕が俺の身体を押し返そうとする。
「っ、朱里?」
「……いけません、このような昼日中から…。
家臣の方に見られなどしては…信長様の威厳に関わります」
「誰の目も気にする必要はない。
誰にも何も言わせはせぬ」
「っ、本当に駄目ですっ。お許し下さい…」
(やはり家老達が言ったことを気にしているのか…)
「朱里、俺はなんと言われても構わぬ。
鬼だの魔王だのと、非難されることには慣れておる。
……だが、貴様が傷つくことは耐えられぬ。
家老達は、俺が奴等に相談せずに決めたことが気に入らぬだけだ。
この安土で貴様を疎ましく思う者など一人も居らぬ。
皆、貴様を大事に思っている」
もう一度、朱里の身体を抱き寄せる。
強く抱き締めていなければ、消えてしまいそうな不安に駆られて、その身体を、壊れそうなぐらい強く、いつまでも抱き締め続けた。