第22章 心の棘
翌朝、朝餉のため、いつものように皆が広間に集まる。
「……朱里はどうした?姿が見えぬが…」
広間を見回しながら言うと、皆一斉に気まずそうな顔になる。
特に昨日の事情を知っている家康は、溜め息を吐きながら憂鬱そうな顔を浮かべている。
「……秀吉、千代を呼べ」
「はっ」
やがて千代が広間に入ってくるが、武将達が勢揃いした物々しい雰囲気に圧倒されて、強張った表情を浮かべている。
「…千代、朱里はどうしている?
何故、この場に来ぬ?」
怖がらせぬように、努めて優しく問いかける。
「……あ、あの、姫様はお加減が優れず、朝餉は自室で召し上がられるとのことでございます。
そ、それと…当分の間、夜も自室で休みたい、と言われておりまして…….
も、申し訳ございませぬっ」
「体調が悪いのか?」
「っ、そ、それが…昨日戻られてからお部屋から一歩も出られず、誰にも会いたくない、と言われて…」
思いもよらない千代の言葉に、皆、心配そうに顔を見合わせている。
「……この後、見舞う。
そう伝えておいてくれ」
「は、はい、ありがとうございます」
退出する千代を見送りながら、秀吉が俺に問いかける。
「御館様っ、一体何があったのですかっ?
昨日の年始の会、御家老たちの朱里に対する態度は確かにあまり好意的ではなかったですが…」
昨日家康から聞いた話を皆に伝えると、口々に憤りの声を上げ、朱里を心底心配する様子が窺えた。
(朱里…安土の者は皆、貴様を心配している。
ここでは貴様はなくてはならない存在なのだ……この俺にとっても、な……)