第107章 嫉妬は甘い蜜の味
「今年も色々あったが、過ぎてしまえばあっという間だったな」
「妻としてまだまだ至らぬことばかりでしたが、信長様のお傍にいられて私は今年も変わらず幸せな一年でした。信長様、ありがとうございます」
「ふっ…改まってどうした?貴様はよくやってくれている。昼間も言ったが、俺にとっての貴様は唯一無二だ。何があろうと手離しはせん」
迷いのない口振りできっぱりと言い切ると、信長は朱里の腰に手を回し、自分の方へと引き寄せる。
「あっ…んっ…」
体勢を崩して信長の方へとしな垂れかかった拍子に、手元の徳利の中で酒がちゃぷんっと揺れ動く。
「んっ…信長様?」
「良き酒を貴様と飲めんのは残念だな。吉法師にはまだ乳をやらねばならんのか?彼奴ももう赤子ではない。そろそろ貴様を返してもらわねばならん」
そう言うと、盃を持っていない方の手が夜着の上から私の胸の辺りをするりと撫でる。
「あっ…んっ…何を言って…あっ…」
「言っただろう?貴様は俺だけのものだと。我が息子であっても、俺以外の男に貴様をやるつもりはないぞ」
激しい独占欲を露わにする言葉とともに、胸の上を撫でていた手が膨らみを荒々しくぎゅっと鷲掴みにする。
薄い夜着越しに信長様の大きな手の感触を感じてしまい、あられもない声が漏れるのを抑えられない。
「やっ、あっ…ダメです、そんな…」
「ダメではない。ここは俺のものだろう?いつまで吉法師に吸わせるつもりだ?ん?」
ピンっと勃ち上がった胸の尖りを少し強めに摘まれて頭の芯が痺れたような感覚に陥る。
「んっ…ふっ、あ…やっ…」
(急にどうしてこんな意地悪を仰るのかしら…まるで吉法師に嫉妬なさっているみたい…ってそれは流石にないか…)
今や天下人として比類なき権勢を誇り、武将としても一人の男としても他を圧倒的に魅了する、自信に満ち溢れた信長が、他人に、ましてやまだ幼い我が子に嫉妬をするなどあり得ないと、朱里は頭に浮かんだ疑惑をすぐさま心の内で否定した。