第22章 心の棘
新年の宴が終わり、夜も更けた頃、
信長は静かになった城内を一人、朱里の部屋へと向かって歩いていた。
(夜は天主に来るように言ってあったが……何も言わずに来なかったことなど今まで一度もなかった…)
宴の前に家康から聞いた話が心に重くのしかかる。
「朱里、入るぞ」
襖を開けて中に入るが、部屋は暗く冷え切っており、隣の寝所の方からぼんやりとした灯りが覗いていた。
(……もう眠っているのか)
そっと寝所の襖を開いて中を窺う。
見ると、白い夜着姿の朱里が褥の上に伏して眠っている。
音を立てないように静かに近づいて褥の横に腰を下ろし、そっと朱里の顔を覗き込む。
先程まで泣いていたのか、朱里の頬には涙の跡が残り、頬の下の褥もしっとり濡れていた。
(泣き疲れて眠ったのか……)
乱れて顔に落ちかかる髪をそっと直してやる。
(すまぬ、朱里。貴様を傷付けるつもりなどなかったのだ。
このようなことになるとは、我ながら思いもしなかった。
……貴様はどうすれば、また笑ってくれる?)