第106章 収穫祭の長き夜
言葉に詰まりモジモジと言い淀む私に痺れを切らした信長様は、強引に私を寝台に押し倒した。
顔の横に両の手を突いて上から覗き込まれると、益々何も言えなくなって気まずさから瞳を伏せてしまう。
「目を逸らすな。隠し事はせぬ約束だぞ」
「隠し事など…そんな大層なことではないのです。ただ、そのぅ…信長様の仮装をもっと見ていたかったな、って…少し名残惜しく思っていただけです」
「は?」
私の返答が予想外だったらしく、信長様は虚を突かれたかのように目を瞬かせた。
「っ…そんなに驚かないで下さい。恥ずかしいです…」
「くっ…貴様はまた呆けたことを言いおって…仮装など他愛もないではないか」
「や、だって…本当に素敵でしたもの。異国の衣装が信長様ほど似合う方は、きっと他にはいないと思います。皆、見惚れてましたよ?」
特に女性達が…とは何となく悔しくて言えなかったが、今日の信長様が誰もが見惚れるほど素敵だったのは事実だった。
「っ…つまらぬことを言うものだ」
(俺に見惚れるなどと…朱里、貴様の方こそ今日一日行き交う男どもの視線を釘付けにしていたというのに…相変わらずそういったものには露ほども気付かぬ性分らしい…全く困ったものだ)
愛らしい魔女の衣装に身を包んだ朱里を眩しそうに見つめる者達のいかに多かったことか…
朱里に向けられる男達の邪な視線を感じるたびに苛立ち、自分は何と狭量なのかと内心呆れるばかりだったというのに…
「…信長様?」
(変なこと言って呆れられちゃったかな?)
急に黙ってしまった信長を朱里は不安げに見上げる。
「貴様は本当に…他愛もないな」
「えっ…っ、んんっ…」
ふわりと柔らかく重なった唇の暖かな感触に、トクっと胸の奥で鼓動が跳ねる。
ちゅっちゅっと小さく啄むように何度も落とされる口付けに気持ちが急かされるようで落ち着かなくなる。
「っ…んっ、待って…信長さま…」
腕に取り縋る私の手をやんわりと絡め取り、頭の上に一纏めに捕えると信長様は不敵に口角を上げた。
「待て、は聞かん。貴様は無自覚が過ぎる」
「んっ、はぁ…あ…そ、それはどういう意味で…っん…」
耳元に唇を寄せ、悩ましげに囁く信長様の深く低い声音がゾクリと身体を震わせる。