第106章 収穫祭の長き夜
「そういえば…俺はまだ貰っていなかったな」
「えっ…んんっ…な、何を…ですか?」
首筋にチュウッと強く吸い付きながら、信長様は徐ろに何事か思い出したかのように呟いた。
与えられる甘く痺れるような鈍い痛みと首筋にかかる熱い吐息に正気を失いそうになりながらも問いかけると、信長様は悪戯っぽく口元を緩めた。
「朱里、『とりっくおあとりーと』だ」
「えっ…」
よもやこの場面でそれを言われるとは思っていなかった私は、面食らってしまい、すぐに反応できなかった。
「俺はまだ貴様から菓子を貰っておらんのだが?」
「ええっ…そ、そんな…いや、それは確かにそう…ですけど…」
子供達や町の人達に用意した菓子を配り、手持ちのものは全て配り終えていたが、言われてみれば信長様にはお渡ししていなかった。
そうは言っても、私が作った辻占煎餅は出来上がってすぐに信長様には試食を兼ねて食べて頂いていたし、今日は城下で皆に配るのが目的だったから…と心の中で言い訳を重ねるが、そんな私の胸の内など知る由もない信長様は耳元で更に不穏な言葉を囁いた。
「菓子を渡さねばどうなるか…分かっているのだろうな?」
「うっ…」
魔王さながらの不敵な笑みを浮かべながら、信長様の手が私の身体の線を確かめるようにするりと撫で下りていく。
「あっ、んっ…」
僅かに触れる程度の淡い刺激にも関わらず、身の奥の熱が煽られて悩ましげな声が溢れてしまう。
更なる快楽を期待した身体がジクジクと疼き始めているのを自覚せずにはいられなかった。
(ん…もっと…もっと強く…深く触れて欲しい)
「どうした?早く寄越せ」
信長様は早く、と私を急かすように言い、その間も絶え間なく身体の敏感なところに触れてくる。
寄越せ、と言われているのは菓子か、それともこの身か……絶え間なく与えられる悦楽に段々と思考が覚束なくなり、与えられる熱に身も世もなく溺れてしまいたかった。
「っ…あっ…信長さまっ…」
「さぁ、朱里…早く」
「やっ…も…お願い、信長さま…もぅ…」
「ふっ…これは異なことを言う。お願いしているのは俺の方だぞ?」
骨張った長い指が焦らすように鎖骨の上をツーっとなぞっていき、はだけた夜着の襟元から中へと深く侵入する。
「んんっ、っ、はぁ、んっ…」