第106章 収穫祭の長き夜
「寝たか?」
「はい!今宵はあっという間に…一日外に出ていて疲れていたのでしょうか、すぐに寝てしまいました。結華も眠たそうでしたし、今宵は二人ともきっと朝までぐっすりですね」
すぅすぅと可愛らしい寝息を立てている吉法師を寝台に寝かせ、起こさぬようにそおっと掛布を掛けてやってから信長様の方を見ると、肘を枕に寝台にゆったりと身を横たえておられた。
見慣れたいつもの黒い夜着を身に纏った姿に、昼間の魔王の仮装が重なって我知らず胸が高鳴ってしまった。
(信長様の仮装姿、もっと見ていたかったな…本当に素敵だった)
収穫祭が大好評のうちに幕を閉じ城へと戻った後、遊び疲れて眠たそうな子供達の着替えや湯浴みを慌ただしくしているうちに、信長様の仮装を改めてじっくり拝見することも叶わず今に至る。
素敵なお姿をもう少しゆっくりと堪能したかったなと、少し名残惜しい気持ちで信長様を見つめてしまう。
「朱里」
そんな私の気持ちを見透かすかのように信長様は優しく私の名を呼び、手を差し伸べてくれる。
少し気恥ずかしい気持ちもありながらも、差し伸べられた手に遠慮がちに手のひらを重ね合わせると、そのままグイッと引き寄せられた。
「っ…あっ…っ…」
腕の中へと囚われて、美しくも妖しい深い紅の眸が間近に近づいて胸の鼓動が早鐘を打つ。
「……何を考えていた?」
「えっ…?」
「また何事か考えていたであろう?貴様はどんな表情も美しいが、そのような憂い顔は貴様には似合わん。言え、何を憂いておる?」
「っ…あっ…そんな…何も…」
唇が触れ合いそうな距離で問い詰められて、聞こえてしまいそうなほどドキドキと煩いぐらいに心の臓が音を立てる。
色々と思案することなどがあり、それが憂いのように顔に出てしまっていたのだろう…我知らず信長様をひどく心配させてしまっていたようだった。
(信長様が心配して下さるほどの訳などないのだけれど…どうしよう、恥ずかしくて上手く言えない。素敵な貴方に見惚れていただけ…なんて)
「っ…朱里っ…」
「んっ!?やっ…あっ…」