第106章 収穫祭の長き夜
そうして家族仲良く城下を歩きながら、屋台巡りを楽しんだり仮装の子供達に菓子を配ったりしているうちに段々と日が暮れてきた。
道々に飾られた南瓜提灯にも灯りが点され、夕闇が迫る中、柔らかな提灯の光が大坂城下を幻想的に彩り始める。
「わぁ…綺麗ですね。まるで本物の妖が出てきそうな不思議な感じがします」
提灯の中の蝋燭がゆらゆら揺れて南瓜お化けが無気味な影を作り出すのが、まるで妖の仕業のような不可思議さを醸し出している。
夕暮れから夜闇が近づく今ぐらいの時分を『逢魔が刻』というように、どこからともなく妖が現れてもおかしくないような、町全体にそんな雰囲気が漂っていた。
「例年の収穫祭とはまた一味違った趣のある催しになったな。俺は妖など信じぬが、たまにはこういうのも良い。その年の恵みを皆で祝い、大人も子供も異国の文化を心から楽しめる…この国の誰もがそんな風に過ごせるような開かれた豊かな世にしなければならん」
「信長様…」
信長様は異国の珍しいものがお好きだが、珍しいからといって西洋の文化を無条件に受け入れるばかりではなく、西洋の優れた技術、知識を柔軟に取り入れて日ノ本の民達の暮らしを豊かにし、やがては西洋の国々とも対等に渡り合えるような力のある開かれた国となるように日々尽力されている。
(戦のない世であればこそ、こうして異国の文化を楽しむこともできる。大人も子供も、武士も町民も百姓も、誰もが日々の心配なく生きていける…そんな世であればこそ、このような催しもできるのだ)
「来年もまたこのような収穫祭ができるといいですね」
「ん…そうだな」
揺らめく光を見つめていると、そっと肩を抱き寄せられる。
昼間の祭りの賑やかな喧騒とは打って変わって行き交う人の数も少なくなった秋の夕暮れは何とも言えない物悲しさも感じられ、信長様に触れられたところから感じる穏やかな温もりに抗うことなく身を委ねた。