第106章 収穫祭の長き夜
「はっ…食い意地の張った奴め」
「も、もぅ…びっくりした。焦って変な声出ちゃいましたよ」
隣で見ていた信長様は、大きく齧り取られた饅頭の残りと吉法師をチラリと見比べて呆れたように言う。
慌てる母の心配をよそに、無事に饅頭を飲み込んだ吉法師は平気な顔をしている。
甘い饅頭を食して満足したのか、ニコニコしながら更に残りの饅頭に手を伸ばそうとする吉法師を慌てて抱き寄せて、更なる饅頭の略奪を防いだ。
「むぅ!」
「そ、そんな不満そうな顔しなくても…いい子で待ってくれたらお饅頭、母様がちゃんと小さくしてから食べさせてあげるよ?」
「貴様に取られると思っているのだろう。全く…せっかちで独占欲の強い…困った奴だ」
「は、はぁ…」
(せっかちで独占欲強めの自己主張激しめ…?どこかの誰かさんに似てるとは口が裂けても言えない!)
思わぬところで吉法師の父親譲り?の性格がチラリと垣間見え、何とも言えない複雑な心境になる。
まだ赤子ゆえ、これから成長していけば変わっていくのかもしれないが、吉法師の容姿は信長によく似ていた。
漆黒の髪と紅蓮の炎のような深紅の瞳。
私も黒髪だからこの場合どちらに似たとも言い難いのだが、見た目の印象的にはやはり信長様に似ているのだ。
結華もそうだが、一目見て信長の子だと分かる容姿をしており、二人とも美形揃いの織田家の血を色濃く引いているようだった。
ただ結華は女の子だということもあるのかもしれないが、見た目は父親似でも天真爛漫なその性格はどちらかと言えば母親譲りだという印象だった。
(親子って見た目だけじゃなく性格も似るものなのかしら…吉法師ももうちょっとしたら小さな信長様みたいになる?そ、それは早く見たいかも…?)
腕の中で南瓜お化けの着ぐるみがモゾモゾしながら口を尖らせて「むーむー」言っている愛くるしい様子からは想像し難いが、いつか吉法師も信長様のようにカッコよく成長する日が来るのかと思うと、母としては今から楽しみで仕方がなかった。