第106章 収穫祭の長き夜
そうして家族揃って城下へと向かうと、町は彼方此方にハロウィンの飾り付けがされていて、思い思いの仮装をした人々で賑わっていた。
大通りには食べ物の屋台なども沢山出ていて、焼きものの香ばしい匂いや、菓子の甘い香りなどがどこからともなく漂ってくる。
「うわぁ…賑やかですねぇ。お店もいっぱい出てるし…あっ、南瓜提灯!政宗が作ってくれたやつですね」
店の軒先など、道ゆく先にいくつも飾られた南瓜提灯は政宗が作ってくれたものだった。
お化けの顔にくり抜いた南瓜の中には蝋燭が入っていて、夜になれば灯りが点される手筈になっている。
今はまだ灯りのない状態だが、通りの至る所に南瓜提灯が飾られている風景はどこか異国の雰囲気を漂わせていて、その場に立っているだけで不思議な心地になるようだった。
「あっ、結華と同じ猫さんの子がいるよ!あ、あっちにも…」
信長様と手を繋ぎ、キョロキョロと周りを見回していた結華が何かを見つけたように声を上げる。
その視線の先に目をやると、結華と同じ猫耳の飾りを付けた子供達が通りを歩いているのが見えた。
「本当だ、結華と同じ猫さんだね。あ、あれ?あの子も…あっちの子も猫さん…?」
見れば多くの子供達が猫耳を付けた仮装をしているようだ。
黒猫、三毛猫、茶色に白色、と通りには猫が溢れていた。
(これって偶然…?何で猫ばっかり?)
「母上、猫さんがいっぱいだね!」
「そう…だね?う〜ん、何でだろう?」
猫耳を付けた可愛らしい子供達がお菓子を手に持って楽しそうに歩いている姿は可愛らしいが、皆が同じ仮装なのは何とも不思議な光景だった。
「鳩が豆鉄砲を食らったような顔だな」
「んんっ…」
子供達の猫耳に目を奪われていると、いきなり頬を指でちょんっと突かれる。
驚いて信長様を見ると、訳知り顔でニヤリと笑っておられる。
「信長様…何かご存知なんですか?」
(この猫だらけの状況の理由を…)
「当然だ。子供らのアレ(猫耳)はこちらで用意したものだからな」
「えっ…そうなのですか!?知りませんでした」
収穫祭に仮装で参加してくれた者に配る菓子は城で用意したが、仮装の衣装の手配までするとは聞いていなかった。
「仮装しろと言われても何を着たら良いのか分からないと民達から訴えがあったのだ。皆が手軽に仮装気分を味わえるものはないかと思案していたのだが…」