第106章 収穫祭の長き夜
(本当に素敵…何を着ても似合っちゃうなんて、やっぱり信長様は凄いな。でも私も…こんな風に普段できないような格好をするのって何だかとても気分がいい!)
異国の衣装に身を包み、いつもの自分と違う姿になりきるだけで不思議と華やいだ気分になっていた。
「ふっ…貴様、子供らのように楽しげだな」
「はい、いつもの着物と違うので少し恥ずかしさもありますけど、仮装がこんなに楽しいものだとは思いませんでした。早く城下へ行ってみたいです!」
「父上っ、結華も!結華も早く城下に行きたい!」
「ちち!」
「くくっ…そんなに急かさずとも収穫祭は逃げはせん。今頃は城下も仮装をした民達で賑わっておろう。いつも以上に人出も多いはずだ。お前達、はぐれるなよ」
「はいっ!父上」
「あいっ!」
「ふふ…」
(二人とも可愛いなぁ…)
父に対して元気いっぱいに返事をする結華と、父の言葉の意味を分かっているのかいないのか、姉の隣で姉の真似をして元気よく返事をする吉法師を見て、姉弟の微笑ましい様子に自然と口元が緩んでしまう。
「……朱里、貴様もだぞ?俺から離れるなよ?」
「ええっ…もぅ、私は子供じゃありませんから、はぐれたりしませんよ!」
冗談なのか本気なのか、子に言い含めるような口調で言う信長に、まさか自分まで心配されているとは思いも寄らなかった私は、ついムキになって子供のように声を上げてしまった。
「くくっ…俺が一番目を離せぬのは貴様なのだがな…まぁ良い。では行くぞ」
意味ありげな笑みをほんの一瞬口元へと乗せてから、信長は朱里に向かって手を差し伸べる。
いつものように手を繋いでくれるのだと思い、嬉しくなってその手を取ると、予想外にもそのままグイッと引き寄せられた。
「っ!?の、信長様!?」
体勢を崩したまま驚いている朱里の腕を取り、信長はするりと自身の腕に絡ませた。
「えっ?あ、あの…」
「西洋では恋仲の男女はこのように腕を組むらしいぞ」
「そうなのですか!?」
(でも、これって手を繋ぐより密着度が…)
着物と違って胸元の開きが広くなっている異国の衣装で腕を絡めると、自然と胸の膨らみを信長様の腕に押し付けるような格好になってしまい、落ち着かない。
「あ〜っ、母上だけずるい!結華も!」
「も!」