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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第106章 収穫祭の長き夜


「お、奥方様っ…おやめ下さい、そのような格好は…」

「えっ、どうして?村のお母さん達はこんな風に子守りしていたわよ。ほら、これだと両手が空くし、吉法師ともずっと一緒にいられるから一石二鳥よ。ねぇ、吉法師?」

「あぅ!あーあー」

竈の前に立ち、焼き上がった煎餅をひっくり返しながら後ろを振り向いて声を掛けると、吉法師はパタパタと手足を動かしながら嬉しそうな声を上げた。
その表情を窺い見ることはできないが、声の調子を聞くだけでもご機嫌なのが分かって嬉しくなる。

吉法師を背におぶって嬉々として竈の前に立つ私とは反対に、乳母は困り顔でその場でオロオロしている。
武家の奥方が領民の女子のように赤子をおぶって竈仕事をするなど、おそらく前代未聞なのだろう。
今でこそ私が厨に出入りして信長様のために料理をすることが当たり前のように受け入れられているけれど、最初の頃は随分と驚かれたものだ。
武家の正室は自分で料理なんてしないし、赤子の世話だって乳母に全て任せるのが世間一般の常識なのである。
そういう意味では私のやる事なす事全てが異例尽くしなのだが、何事においても常識に囚われない信長様は、いつも私の望みを容易く叶えて下さるのだ。

(あり得ないって思われても構わない。これが私と吉法師にとって最良の方法なんだもの)

「吉法師、これは収穫祭で配るお菓子だよ。小さく割って柔らかくしたら吉法師も食べられるよ。楽しみだねぇ」

「あ〜あぅ…」

商人達から聞いたハロウィンの話は大人も子供も楽しめるものだった。
当日は結華は勿論のこと、まだ赤子の吉法師も共に城下へと連れていくつもりだった。

(子供達の仮装も楽しみだな。吉法師はまだ小さいから思い出として記憶に残ることはないかもしれないけど、家族で過ごす楽しい一日になるといいな。私達家族も民達も…皆が楽しく過ごせる催しにしたい)

背中の上で機嫌良く声を上げる愛しい我が子に答えながら、私もまたワクワクと湧き立つ心を抑えることができなかったのだった。


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