第106章 収穫祭の長き夜
ハロウィンの飾り付けとして西洋でよく作られているという、丸ごと南瓜の皮を目と口と鼻の形にくり抜いて中に蝋燭を灯した南瓜提灯。
それを街の彼方此方に飾り付けて、夜になると蝋燭に灯りを灯してハロウィンの夜を盛り上げるのだと言う。
そしてこの南瓜提灯には、『ジャック・オー・ランタン』という名前が付いているのだそうだ。
ジャックとは、古い物語に登場する男の名前で、生前、悪いことばかりしていたジャックは、魂を取ろうとやってきた悪魔までも騙したため、地獄に堕ちることもできず、死んだ後も火を灯した南瓜提灯を頭に被せられたまま闇夜を彷徨い続けているのだという。
そんなお話から、ハロウィンには南瓜を怖い顔にくり抜いて家々の前に飾り魔除けとすることで、悪霊を怖がらせて追い払えると伝えられているそうなのだ。
(南瓜の飾り付けも収穫祭を盛り上げるのに使えるかも…)
「政宗、その南瓜どうするの?」
「ん?これか?これは煮物にして夕餉に出そうと思ってる。今年は南瓜の出来が良いらしくてな、どこも豊作だそうだ」
「そうなんだ。南瓜の煮物って美味しいよね。甘くてホクホクして柔らかくて…」
「ああ、皮は少し固いけどな。で、お前は何やってたんだ?いつもの菓子作りか?」
「あ、ええと…私は収穫祭の打ち合わせで…」
私は政宗にも今年の収穫祭とハロウィンの話をした。
「へぇ…『じゃく・おー・らんたん』ねぇ…南瓜頭のお化けとは、なかなか洒落てんな」
政宗は手に持っていた南瓜を顔の前にかざしながら、おどけた仕草をしてみせる。
ハロウィンの催しに、随分と興味を持ってくれたみたいだ。
「ふふ…ねぇ、政宗、その南瓜で飾りを作りたいと思うんだけど、どうかな?」
「おっ、いいぜ。くり抜いた中身は料理に使えばいいから無駄がないしな。町中を飾るんならもっと沢山仕入れて来てやるよ。南瓜提灯作りは俺に任せとけ」
「いいの?ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」
「おぅ、任せろ。大坂城下を南瓜だらけにしてやる」
「ふふ…」
意気揚々と南瓜を掲げて笑う政宗を見て、私もまた頬を緩めた。
宵闇に浮かぶ南瓜提灯の柔らかな灯りがゆらゆらと揺れる大坂城下の情景を想像し、その幻想的な美しさに想いを馳せると次第に気持ちが浮き立ってくるようだった。
(今年の収穫祭は夜まで楽しめるものになりそう。あぁ、楽しみだわ)