第106章 収穫祭の長き夜
南蛮菓子のクッキーは小麦粉、砂糖、バターを混ぜて形を整え焼いたものだが、甘くてサクサクとした食感が楽しい菓子で、信長様にも何度かお作りしていた。
「クッキーなら民達には珍しく思ってもらえるかしら…でもただ焼いただけだと面白味に欠けるような気もするし…」
皆で作業台の周りに座ってお茶を飲みながら話し合う。
厨へ通い始めた最初のうちは皆、恐縮してなかなか打ち解けてくれなかったものだが、今では一緒にお茶を飲むのも自然な流れだった。
「奥方様、お煎餅も召し上がって下さいませね」
勧められるまま、お茶と一緒に出してあったお茶請けの煎餅を摘み、パリッと頬張った。
「ん…パリッとした薄焼きのお煎餅で美味しいわね。ほんのり甘くて…生姜みたいな味がする」
「生姜味のお煎餅なんですが、甘さには糖蜜を使っているそうですよ。城下の菓子屋で買って来ました」
「へぇ…糖蜜かぁ…」
空気を含んだ軽い生地は口当たりが良く、何枚でも食べられそうだった。
生姜の味も決して強くはなくほんのりした感じで、甘さもあって子供も好きそうな味であった。
(南蛮の甘いクッキーもいいけど、こんな優しい甘さのお煎餅もいいかも…あっ、そうだ!)
「ねぇ、このお煎餅を参考にして薄焼きのお煎餅を焼いて、それを半分に折って中におみくじを入れたものを配るのはどうかしら?」
「まぁ!奥方様、それって『辻占煎餅』ですか?」
「そう!おみくじが入ったお煎餅なら食べる時の楽しみが増すと思わない?作り方が分かれば、私やってみたいのだけど…」
「いいですね!では材料など詳しく聞いて参ります」
話が纏まり、早速に城下の菓子屋に聞きに行ってくれるという女中を見送った私は、お礼を行って厨を後にする。
「おっ、朱里、お前も来てたのか」
「あっ、政宗…」
厨を出ようとしたところ、入り口で出会ったのは政宗だった。
政宗が両手に抱えた籠の中には沢山の南瓜が入っていた。
見慣れた緑色の皮の南瓜の他に、珍しい橙色をした南瓜もある。
(南瓜がいっぱい入ってる…南瓜って、ちょうど今まさに収穫時期の野菜だもんね。そう言えば、商人達から聞いたハロウィンの話にも南瓜の話があったっけ…)