第106章 収穫祭の長き夜
次の日、堺から来ていた商人達に『ハロウィン』の話を詳しく教えてもらった私は早速に収穫祭の準備に取り掛かることにした。
「仮装の衣装は準備してもらえるそうだから、あとはお菓子の用意か…お饅頭、干菓子、焼き菓子、飴とか?…う〜ん、何がいいかなぁ」
子供も大人も楽しめるもの、たくさん準備できるもの…菓子も様々に種類があるから決めるのが難しい。
更には見たこともないものならより喜ばれるだろうと思い、南蛮の菓子の本をパラパラと捲ってみていたのだが、目新しいものは多々あれど、何となく決め手に欠ける感じだったのだ。
(一人で考えていても埒が空かないな…厨に行って皆に相談してみようかしら)
厨番たちの意見を聞いてみようと思い立ち、早速に向かうことにした。
ちょうど昼餉の片付けが終わった後の厨では、厨番や女中達が休憩中で一息入れていたらしく、菓子の本を手に持ってやってきた私の姿を見て声を掛けてくれる。
「これは奥方様、また南蛮の菓子を作られますので?」
「今日はどんなお菓子ですか?私、お手伝い致します!」
「私も!手伝わせて下さいませ!」
甘い物がお好きな信長様にいつでも手作りのものを食べてもらいたいと始めた菓子作りはいつの間にか私の趣味になっていて、厨の者たちも私の作る菓子を楽しみにしてくれているようだった。
「こんにちは!今日は皆に収穫祭で出すお菓子のことで相談に乗ってもらいたくて…」
「収穫祭で菓子…ですか?」
「そう、今年の収穫祭はちょっと面白いのよ!異国には『ハロウィン』っていう催しがあってね……」
ハロウィンの話をすると、最初は不思議そうな顔をしていた者も仮装や悪戯という言葉を聞いて次第に興味津々といった風に顔を輝かせた。
「当日仮装をして参加してくれた人にお菓子を配ろうと思うんだけど、どんなお菓子にしようか迷ってて……何か良い案はないかしら?」
「そうですねぇ…沢山用意しないといけないなら日持ちのする焼き菓子などがいいかと思いますが…」
「そうね、焼き菓子だと煎餅とかクッキーとかかしら…それなら一度に沢山焼けるし」
「奥方様の作られるクッキー、とても美味しいですものね!南蛮菓子はなかなか口にできない珍しいものですし、大人も子供もきっと喜びますわ」