第106章 収穫祭の長き夜
「くくっ…悪戯されるのが嫌なら菓子を寄越せ」
「そ、そんな…お菓子なんて持ってないですよ!?」
「ならば菓子と同様に甘い…これを貰おうか」
うっとりするぐらい色気たっぷりの甘い声で唇のすぐ傍で囁かれると、チュッという可愛らしい音を立てて唇が重なった。
そのまま味わうように上唇を柔らかく食まれ、舌先でツンツンと擽られる。
「あっ…やっ…ふぁっ……」
重なり合った唇の端から、甘ったるい吐息が漏れる。
口付けとともに、頭の後ろに回された信長様の手が髪をゆったりと梳いていくのが心地良くて身体から力が抜けてしまいそうだった。
(っ…こんなの、何も考えられなくなる…)
濃密な口付けは湿った水音を響かせて続けられ、身も心も甘く蕩けさせられた私は、最後は信長様にくったりと身を預けてしまっていた。
「もぅ…ひどいです、信長様」
激しい口付けに息も絶え絶えになって訴えるが、当の信長様は涼しい顔だ。
「そのように蕩けた顔で言われてもな。この顔には、もっとして欲しい、と書いてあるぞ」
意地悪そうに言われて頬をスルリと撫でられる。
「っ…んっ…そんな顔…してませんっ…」
口付けだけで奥まで溶け出し始めた淫らな身体が恥ずかしくなり、信長様に気付かれたくなくて顔を背けた。
「ほぅ…ならば今宵はここまでだな。悪戯は終いに致そう」
「えっ…あっ……」
頬を撫でていた手が躊躇いなくすっと離れていけば、勝手なもので急に物足りなさを感じてしまう。
いつもなら強引なぐらいに愛されるのに、こんな風に素っ気なく突き放されるとかえってひどく欲しくなる。
「…………」
「どうした?そんな恨めしそうな目で見るな」
思わずジトっと恨めしげな目で見てしまっていたようで、そんな私を信長様はふふんっと鼻で笑う。
「……今宵は意地悪ですね、信長様」
「今宵も…な」
(うぅ…いつも以上に意地悪なんだけど…)
意地悪な信長様は、珍しく今宵はそれ以上なさるつもりはないらしくて……
結局、口付けで火照った身体を焦らされて何とも言えない気持ちのまま、その夜は更けていったのだった。