第106章 収穫祭の長き夜
久しぶりに見る子供達の元気な姿に、胸の内がふんわりと暖かくなる。
信長様からは、今日は時間は気にせずゆっくりしてきてよいと言われていた。
乳母に預けた吉法師がぐずっているのではないかと心配ではあったが、久しぶりに会えた学問所の子供達の笑顔に癒されたのもまた事実だった。
(皆、元気そうで良かった。全員、変わらず通えてるようだし、学問所の運営も上手くいってるみたい)
笑顔いっぱいの子供達に手を引かれ、教室に向かう朱里の足取りは軽かった。
「ウチの田んぼ、もう稲刈り済んだよ!今年は豊作だって父ちゃんが言ってた」
「ウチも!野菜や芋もいっぱい採れてるって!」
「もうすぐ収穫祭があるんだって!……収穫祭って何するの?」
「収穫祭?そっか、もうそんな時期かぁ…」
授業を終えた後、帰り支度を始めた子供達と話をしていて、そんな話になった。
安土では毎年稲刈りがひと段落つく頃になると、その年の豊作を祝う収穫祭が行われていた。
その年に収穫した米や野菜を氏神様にお供えし収穫を祝う祭りは、食べ物の屋台なども準備されて、大人も子供も楽しめるものだった。
ここ大坂の地は商人が多い商いの町という印象ではあるが、城下を出れば農村部も多く、大坂へ城移りした後も収穫祭は変わらずに催されていて私も毎年楽しみにしていたのだが、越後への旅から戻って以降、忙しい日々が続いていたこともあり、気付かぬ内にもうそんな時期になっていたらしい。
(今年の収穫祭はいつなんだろう…帰ったら信長様に聞いてみようかな)