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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第105章 毒と薬は紙一重


「……トリカブト」

「……えっ?」

低く沈んだ声でぼそりと呟かれた家康の言葉を、私は聞き取れなかった。

「これはトリカブトの根だ」

「トリカブトって…えっ…嘘でしょ?これが?あの猛毒の?何で!?何でそんな恐ろしいものがここにあるの??」

トリカブトといえば、薬学を少し学んだ程度の私でも名前ぐらいは知っている毒性の強い植物だ。
抽出したその毒を矢尻に塗れば、熊をも容易く射殺すことができると言われるほど強い毒性を持つと聞いたことがある。
紫色の美しい花の見た目に反して、その花にも葉にも毒があり、特に毒性が強いのが根の部分だという。

「落ち着いて、朱里。トリカブトは猛毒だけど、これは一応毒抜きは済ませてある。まだ煎じる前だけど、本来の強い毒性は失われているはずだ」

「そんなこと言ったって…トリカブトだよ?毒なんて…どうして…」

「毒は薬にも転じる。トリカブトの子根は附子(ぶし)といって毒抜きをして煎じれば漢方薬になる。そのまま口にすれば、嘔吐や痺れ、呼吸困難を起こして死に至る場合もある猛毒だけど、毒抜きをして薬として摂取すれば、血の巡りを良くして代謝を促し、冷えを除き、強心・利尿作用、麻痺、疼痛を治すという薬効を得られる。使い方さえ誤らなければ、毒もまた役に立つ薬だよ」

「そんな…毒が薬になるなんて…でも、それなら吉法師は大丈夫なんだよね?毒抜きをしたトリカブトなら、口に入れても何ともないってことだよね?」

腕に抱いた吉法師は泣き止んだものの、少しグッタリしているようにも思われて……

「っ…それは…毒抜きはしてあるし、舐めただけなら大丈夫だと思うけど…吉法師はまだ赤子だ。大人と違って身体の小さな赤子に影響がないかどうかは…これから様子を見ないと何とも言えない」

「っ……」

沈痛な面持ちで吉法師を見守る家康に、それ以上は言い募れなかった。

(どうしよう…私が目を離したばかりにこんなことになってしまうなんて…いや、そもそも吉法師の手の届くところに置いておいたことが不注意だったんだわ。気を付けないといけないって反省したばかりなのに…私ったら…あぁ、なんて愚かなことを…吉法師にもしものことがあったら…あぁ、どうしたらいいの…)

嫌な想像が頭の中をぐるぐると駆け巡り、不安や恐れ、後悔といった負の感情が胸の中で膨らんで息をするのも苦しいぐらいだった。

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