第105章 毒と薬は紙一重
「ふぇ…うっ……」
続きの間から聞こえた、弱々しい泣き声に朱里の足がビクリと止まる。
「えっ…吉法師?」
(あっ…起きちゃった?でも変だな…いつもは起き抜けはもっと元気な泣き声を上げるのに…)
違和感を感じながらも、そのまま襖を開いたが……
「吉法師っ…!?」
最初、目の前の光景が理解できずに身動きできなかった。
どういう状況なのか、何故にこんなことになっているのか、どうしないといけないのか…そんなことも考えられずに、ただ呆然と立ち尽くしてしまった。
先に動いたのは家康の方だった。
私を押し退けるようにして室内へ入ると、飛び付くようにして吉法師の元へ駆け寄った。
そうして小さな手が握っていた薬草を強引に奪い取って、手の届かないところへ放る。
「うっ、うわぁーん!」
「き、吉法師っ!?」
火が付いたように大声を上げて泣き出した吉法師の声に我に返り、弾かれたように駆け寄ると、家康は泣いている吉法師の口の中を見たり顔色を確かめたりしている。
(何?何なの?何でこんな…)
昼寝から目覚めた吉法師は布団を抜け出し、室内を這って文机のところへ辿り着いたのだろう。
ちょうど吉法師の目線の高さの文机には、私が置きっぱなしにしていた家康の薬草があり、好奇心旺盛な吉法師は当然それを手にして……私が見た瞬間には口に入れて舐めていた。
口に入れたと言っても舐めていただけで、飲み込んだりしたわけではない。
それなのに家康のこの尋常じゃない焦り様は何なのだろう。
赤子というのは、目についたものは何でもすぐに口に入れてしまうもので、誤飲は注意しないといけないことではあるのだが……
「い、家康、あの…吉法師は大丈夫なの?それ、一体何の薬草だったの??」
少し青ざめた険しい顔をして、泣き叫ぶ吉法師の様子を見ている家康に私は恐る恐る尋ねた。