第105章 毒と薬は紙一重
「朱里っ!」
廊下を駆けて来た勢いもそのままに、はぁはぁ…と荒く息を吐きながら家康は襖を開け放ったまま立ち尽くした。
室内にいた朱里は、いきなり現れた家康をキョトンとした顔で見つめる。
「どうしたの、家康?そんなに慌てて…何かあったの?」
家康の尋常ならざる様子に戸惑いながら、朱里は心配そうに声を掛ける。
「っ…ごめん、いきなりで…あのさ、朱里、さっき俺がぶつかった時さ、あんた、薬草拾わなかった?」
「えっ?」
「ちょっと…一つ見当たらないものがあって…もしかして、って思って聞くんだけど…いや、知らないなら別にいいんだけど」
後ろめたい気持ちのせいか、歯切れが悪い言い方になってしまう。
そんな家康の気持ちを知ってか知らずか、朱里は家康の言葉を聞いた途端にぱっと表情を変えた。
「あ、あれ、やっぱり家康の薬草だったんだね!ぶつかった時に間違ってわたしの着物の袂に紛れ込んじゃってたみたいなの。大事な薬草だと思ったからすぐに返しに行こうと思ったんだけど、ちよっと色々あって…ごめんね、家康。あれ、やっぱり大事な薬草だったんだね。
っていうか…あれ、何の根っこ?見たことない植物だったけど…」
(よかった…やっぱり朱里が拾ってくれてたんだ…)
安堵からか、一気に力が抜けていく。
「……家康?ねぇ、い、え、や、すー?」
「あ、あぁ…ごめん…」
放心したように立ち尽くす家康の顔を、朱里は不審そうに覗き込んでいた。
「大丈夫?よっぽど貴重な薬草だったんだね。待っててね、すぐ持ってくるから。隣の部屋に置いてあるの」
立ち上がり、続きの間へと向かおうとする朱里を、家康も慌てて追いかける。
「朱里、待って。俺が自分で回収するから、あんたはあれにあんまり触れないで」
「えっ…それってどういう意味…?」
家康の言葉に歩みを止めた朱里が不思議そうに瞳を瞬かせた、その時だった。