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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第105章 毒と薬は紙一重


何とか気を逸らそうと、泣き続ける吉法師を抱いたまま部屋中をあちこち歩き回っていると、やがて泣き疲れたのか、吉法師はウトウトし始める。
このまま寝かしつけてしまおうと、ゆらゆらと揺らしながら子守唄を口ずさんでいると、すやすやと穏やかな寝息が聞こえてきた。
先程まで大泣きして暴れていたのが嘘のように気持ち良さそうな顔で眠る吉法師を見ていると、ホッとすると同時に私も満たされた心地になる。

(ふぅ…やっと寝てくれた。赤子の寝顔って何でこんなに可愛いんだろ…癒されるな)

ぐずられて大泣きされて困らされても、この寝顔を見れば全て忘れて癒される。
吉法師を布団に寝かせて傍らに寄り添い、飽きることなくその寝顔を見つめた。

しばらくそうしていた後、倒れた花入と散乱した曼珠沙華を片付けることにする。
目を楽しませてくれる美しい華だが、赤子の手の届くところに置いておいたのは、些か問題だったようだ。
日々成長し、どんどん行動範囲が広がっていく子供には何が危険になるか分からない。
大人にとっては大したことでなくても、幼い子供には不測の事態にもなりかねない。
周りの大人がしっかり見守り、先を見越して危険から遠ざけてやらなければならないのだ。

『母親である私がもっとしっかりしないと』

改めて、そう己を戒めたというのに……

不機嫌な吉法師を宥めるのに必死で、家康に返そうとしていたはずの薬草を文机の上に置いたままにしていたことを私はすっかり忘れてしまっていたのだ。



「朱里っ!」

吉法師を布団に寝かせて、別室にいた私のところに家康が駆け込んできたのは、それからしばらく経った頃だった。
泣き疲れて眠ってしまった吉法師はなかなか起きず、あまり昼寝が長くなり過ぎてもいけないからそろそろ起こそうかと思っていた矢先のことだった。

「どうしたの、家康?そんなに慌てて…何かあったの?」

はぁはぁ…と荒く息を吐きながら、家康は襖に手を掛けて開け放ったままで立ち尽くしている。
息が上がるぐらい急いで廊下を駆けて来たのだろうか…いつも冷静な家康にしては珍しいこともあるものだ。
表情も厳しく、強張っているように見える。

(どうしたんだろう…こんなに慌てている家康を見るの、初めて…)


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